愛媛新聞ONLINE

2023
123日()

超ショートショートコンテスト アイデア・作品発表

超ショートショート部門 優秀賞

一般の部

作品名 「春の雨までもうすこし」テーマ/新聞紙>
渡邉祐輔
(兵庫県神戸市)

 その新聞社は折り紙機能つきの新聞を売り出した。記事の内容に合ったものを折ると、半日だけ本物になる。例えば花祭りの記事で桜を折れば、瑞々しく咲き命が通う。
 新聞社の想定外だったが、鶴だけはどの記事で折っても本物になって空を飛んだ。新聞はその町が平和であってほしいという、願いをもって書かれているのだろうか。
 ある日SNSで、同じ日にみんなで鶴を折ろうと呼びかけられた。その足に支援物資を結んで、戦争で焼ける麦の国まで届けてもらおうというのだ。
 どうせ半日で紙になると笑う人もいたが、百人ほどが面白いと言って賛同し、それぞれカイロや毛布、缶詰を結わえて鶴を飛ばした。
 鶴は折ったそばからいつにない大きさになり、予想に反して長旅を続けた。
 途中、季節外れの重たい雪が幾羽か沈め、国境を越えた辺りで戦火にまぎれてまた散った。
 それでも多くの鶴は麦の国の町の人に、あるいは兵士のもとに降りて物資を届けた。
 そして役目を終えると一枚の新聞紙に戻り、春の雨に打たれて地に溶けた。

【田丸さんコメント】
なんと深みのある物語だろうと、ひどく胸を打たれました。新聞に不思議な折り紙機能がつくというアイデアが秀逸なのはさることながら、そこからの壮大な展開、呆然とするしかない結末もお見事です。鶴だけは常に本物になる理由へのさりげない言及も素晴らしく、傑作だと思いました。

作品名 「素麺屋台」テーマ/そうめん>
産地直送タッセル万年筆・茨城タワラ
(福岡県福津市)

 屋台があった。どうやら素麺の屋台らしい。
 物珍しさに眺めていると「らっしゃい、どうぞ」と朗らかな声が飛んできた。せっかくだから、呼び込まれるまま席につく。屋台で素麺を食べるなんて初めての経験だ。
 「へい、お待ち」 ワクワクしながら待っていると、流石の早さでザルに盛られた真っ白な麺と、濃茶色の麺つゆが差し出された。薬味は、小葱にショウガ、細切りの茗荷。どれも色鮮やかで良い香りがしている。
 「いただきます」 まずはシンプルに素麺をつゆに浸して口に運ぶ。唇からするりと滑り込んだ麺は、昆布の風味を纏い、上品な小麦粉の味わいを広げ、僅かな柑橘の気配を残し、口の中を幸せで満たして、颯爽と喉の奥へ駆けていく。
 「う、美味い」 思わず感嘆の声を上げると、大将は豪快に笑ってお茶を注いでくれた。夢中で食べ進める。輝く麺と艷やかなつゆは、薬味とも縦横無尽に絡み合い、様々な後味を振り撒いていく。これが美食というものか。食欲だけではない満足感にうっとりと浸る。
 「大将、明日も食べに来ます」 「おっ、ありがとな。けど、次はいつどこでやるか分からないんだ」 「えっ」 「うちは、流しの素麺屋なんでね」

【田丸さんコメント】
「素麺の屋台」というアイデアに、本当にあったらとワクワクしました。そして、圧巻なのがそうめんを食べる描写です。口の中にも自然と味が再現されて、いま実際に食べているかのように錯覚します。そうめんの特徴に掛かった結末にも、思わず「うまい!」と叫びそうになりました。

小学生高学年の部

作品名 「対のすみか」テーマ/老人ホーム>
北地菜々美
(松山市道後小学校4年)

 ここは愛媛にある老人ホーム。大きな窓からは海が見え、一年を通してミカンの成長を楽しめる。散歩の途中には、坊ちゃん電車に乗り、道後温泉で疲れをいやすことも可能だ。そんな愛媛の良いとこ取りをした場所にある。
 「対」この文字が意味する通り、この老人ホームでは向かい合う人みんなが語り合う。おたがいができることをおぎないながら、助け合う。けれども決して無理強いはしない。そんな気楽に生活することができるすみかだ。だから住人だけでなく、お年寄りから子どもまでみんなが自然にここに集まってくる。とにかく毎日がにぎやかで、どの人も目がキラキラ輝いていて勢いがある。
 さらに、ここにはまだヒミツがある。
 「対の部屋」
 窓や家具が左右対称に配置された、この部屋で向かい合う人たちは、対の行動をして楽しむのだ。私が右手を上げたら、あなたは左手を上げて。時には、挑戦的に「これはどうだ」と家具や花びんを持ち上げる。相手も負けまいと、ふだん使わない筋肉を使って持つ。そう、これは体を使った脳トレ。ああ、そうか。ここに住む人の健康の秘けつはこんなところにもあった。
 私はこの「対のすみか」が大好きだ。

【田丸さんコメント】
 人生の最期を過ごす「終のすみか」に掛けた「対のすみか」というアイデアが素晴らしかったです。その「対」というのはお互いが向かい合うという意味なのだという説明に納得しながら、さらなる秘密にもうなりました。本当にこんな場所があったらと、温かい気持ちになりました。

小学生低学年の部

作品名 「キセキのシンブンシ」テーマ/新聞紙>
本多きほ
(松山市みどり小学校3年)

 ぼくらの名前はキッキとタッタの仲よし兄弟。今からスイスに行ってサッカーのし合をかんせんするよ。
 スイスの新聞記事にシルシをつけて真ん中に乗る。そして、じゅもんは…
 「ヨクイクヨ!」
 スイスにとうちゃく!けしきと空気がすごくいい場所だ。し合の会場からは、カッコイイコッカが流れている。し合が始まった。 サッカーボールが目にも止まらぬ速さでいったりきたり。二人はし合に大こうふん。そろそろ帰る時間だ。二人はシンブンシの真ん中に乗ってじゅもんをとなえた。
 「ヨクイクヨ!」
 二人の家にもどってきた。
 このシンブンシは、上から読んでも下から読んでも同じ言葉の記事の上に乗ると、そこへ行けるキセキのシンブンシ。
 次はどこへ行こうかな。キンキ地方、アジア、トマトガリ、さくらのカイカ。トマトがりに行こう。二人は大きい声でシンブンシに乗って、さけんだ。
 「ヨクイクヨ!」

【田丸さんコメント】
 「シンブンシ」という言葉が回文であることに着目した点、そしてその回文で実際に旅ができるというアイデアにまで昇華した点がお見事でした。新聞を読んで新しい情報と出会うことは旅に似ており、アイデアに説得力が宿っています。読後、新聞で回文を探してみたくなる素敵な一作でした。

超ショートショート部門 特別賞

テーマ/老人ホーム

作品名 「交感」
小石創樹
(富山県富山市)

 母の入所するホームでは、定期的に交換会を行う。
 互換シミュレーターを使って入所者と職員の五感を入れ替え、互いのニーズや苦労を知る事で、サービス向上と人間関係の円滑化を図る試みだ。
 実際にその立場に立って、初めて分かる事もある。どう接してもらえば助かるか、どんな言葉をかけられたら嬉しいか、自分たちが求める事は何なのか。介護の現場が抱える問題に、少しでも解決や歩み寄りが生まれるのを願って。
 職員と交換した入所者には、勤務体験と並行で疑似散策の時間が与えられる。町歩きや買い物、外での運動。不自由な体では難しい事を、昔に戻って味わってもらう。単調なホーム生活に沈んだ入所者が、体験後は見違える様に軽快、職員の負担が減った事例もあるそうだ。
 希望すれば、シミュレーターは入所者家族にも開放される。
 時勢柄制限のつく面会を可能にしたり、仮想帰宅を果たしたり、職員に代わって老親を介護したり。家族の時間をより緊密に、心残りなく過ごす機会となる。
「……来てくれて、ありがとう」
 失語症を患う母の、しぼり出す様な声を数年ぶりに聞いた。
 内緒で入れ替わったのに。涙につまって言葉にならなかった。

【田丸さんコメント】
 技術の進歩によって他者の経験や感覚を疑似体験できるようになる未来がどんどん近づいてきている昨今ですが、こと老人ホームで五感の交換が行われたらという着眼点、そしてそのディティールが素晴らしかったです。「交感」によって本当に社会が明るくなる日が訪れればと願った作品でした。

テーマ/本

作品名 「本」の国
温泉太郎
(東京都練馬区)

 昔、「真」の国と「偽」の国がありました。両国は長く戦っていましたが、最後は真が勝利。ところが真は完璧な統治を目指したため、角を矯めて牛を殺す如く自滅します。
 その後、「善」の国が台頭します。善は世界を優しく統治しました。しかし、平和は永続せず、やがて各地に「悪」の集団が現れ、宣戦布告もなしに奇襲攻撃を仕掛けます。全く準備ができていなかった善は敗北しました。
 しかし、悪は美しくありません。そこで「美」の国が乾坤一擲の大勝負を仕掛け、見事に悪を退治します。
 ところが、美の国の身分制度には差別が存在したのです。やがて「醜」のクーデターが起き、それにより滅んでしまいます。
 そうして「醜」の国ができましたが、国土は汚く病気が蔓延し治安も悪く、すぐに「正直に本当の事を言う国」に征服されました。こうして始まったのが私たちの「本」の国の時代です。

「はい、今日のお話はこれでおしまい」母が言う。
「はーい。おやすみなさい」僕も答える。
 でも僕は知っている。その後、「嘘」の国に騙されて「本」の国は滅亡。ここは「嘘」の国さ。だから母さんの話は全部嘘なんだ。勿論、僕も寝ないよ、朝までずっと起きているつもりさ。

【田丸さんコメント】
 登場する国名と、それぞれの国名にちなんだ国の特徴の描き方がじつに魅力的でした。構成も巧みで、お話の中においてどこまでが本当でどこからが嘘なのか、真相の分からなさ加減も絶妙です。本の世界と現実世界は地続きになり得るという、実際の本の魅力も表現されているように感じました。

テーマ/新聞紙

作品名 「かぞくしんぶん」
藤原チコ
(新居浜市)

 娘が「かぞくしんぶん」を作り始めたのは、小学一年生の時だった。
 記念すべき第一号は、家族の紹介。色鉛筆で描かれた絵に、こんなコメントが添えられていた。
「おとうさん せがたかい」夫の絵は脚が長すぎて、顔の上半分が写っていない。
「おかあさん きびしめ。たまにやさしい」まあ、合っているけれど。
「かなちゃん いもうと。大すき」ほっこり。
 思わず笑ってしまいながら、これは大事にとっておこうと心に決めた。
 そして現在。あれから三十年経った今でも、「家族新聞」は時折ポストに届く。離れて暮らす娘から、手紙という形になって。
 今の紙面の中心は、彼女の新しい家族。特に孫の成長の様子が、温かな筆致で描かれている。
でも、本当は違うのだ。娘夫婦は子宝に恵まれず、それも原因で三年前に離婚した。
もちろん、母である私は知っているし、そのことを娘も知っている。
止めさせるべきか。いや、こうやって偽りを書くことで彼女が楽になるのなら……。何度繰り返したか知れない自問自答が始まる。
 と、その時、新聞の右隅に、見慣れない一文があることに気付いた。
「内容に関するお問い合わせがあれば、お気軽にご連絡ください」
 スマホに映る娘の番号が、涙で滲んだ。

【田丸さんコメント】
 微笑ましい家族のエピソードからの展開にハッとさせられ、ぐいぐい読ませられました。「現在」の家族新聞の内容には胸が痛くなりますが、フィクションにくるむことで初めて出せるSOSもあるのではないかと思います。結末の向こうにどうか救いが待っていてほしいと強く祈った作品でした。

テーマ/ライオンの像

作品名 「息子の俳句箱」
香亜留晴眼
(岩手県北上市)

 通勤途中にある百貨店前の、ライオン像を見ると、いつも息子のことを思い出す。息子は中学に入ったばかりの時に、不治の病で亡くなった。彼の趣味は俳句を詠むことだった。自分の余命が十代で終わることを知っていた。車いすの生活になってからは、「おとうさん。僕はいつまで生きられるの?」そう聞かれるのが、つらかった。
「今日、学校でタイムカプセルを埋めたよ」
「へー。何をカプセルに入れたの?」
「絵とか、作文とか、写真とかいろいろ」
「俳句は入れなかったのかい?」
「やめておいた。爺くさいと皆に笑われる」
 いつだったか息子が動物園に行きたいと言った。俳句のネタでも探したかったのだろう。特にライオンの前では、時間をかけて観察していた。帰り際に売店に立ち寄り、自分へのお土産を買ったようだ。私はトイレに行っていて、その時は何を買ったか知らなかった。
「何を、買ったの?」
「ないしょ。でも、じきにわかるだろうけど」
 息子が亡くなって数年後。大きな地震がやってきた。彼の机の上から陶製の貯金箱が落ちて壊れた。ライオンの形をした、その貯金箱の中には、俳句の紙片が数十句入っていた。

【田丸さんコメント】
 淡々とした筆致であるがゆえに、かえって気持ちを大きく動かされました。短い文字数で命を扱うことは難しいですが、無駄のない描写によってそれに成功しています。少ししか登場しないライオンの像も、むしろ心に残ります。最後の俳句の内容も含め、「描かない」という選択が光る秀作でした。

テーマ/そうめん

作品名 「仲直りのそうめん」
福井雅
(大阪府吹田市)

 ちょうど3年目の結婚記念日に出張を入れるだなんて、ということから今回の喧嘩は始まった。ふたりとも頑固だから、あやまらない。わたしの「松山に一週間も出張だなんて、浮気じゃないの」というセリフも良くなかった。口もきかないまま、彼は出ていった。ひとこと、ごめん、といえば済む話なのに。
 次の日、松山から宅配便で「五色そうめん」が届いた。彼からだ。流しそうめんのように、喧嘩は水に流してくれ、というメッセージだろうか。ちゃんと謝らないと許してやるものか、と思って包みを開けると、手紙が入っていた。
『そうめんに色がついているけれど、人工着色料は一切使われていない。だから「色素」のことは忘れて。それと「う」のことも忘れて。ぼくらのちょうど百倍の年月に免じてほしい』
 どういうこと? 「色素」はまだわかる。でも「う」って何? 浮気ことだろうか。
 ずいぶん考えて、やっとわかった。
 「五色そうめん」から「色そ」と「う」を取ればいいのだ。
 「五」と「めん」が残って、あわせると「ごめん」になる。色そうめんの由来は1722年にまで遡るらしい。今からちょうど300年前だ。
 「つゆを用意して待ってるから、一緒に食べよ」とメールを送った。    

【田丸さんコメント】
 不穏な出だしから提示される謎に、一気に引きこまれました。五色そうめんという言葉の中に「ごめん」という言葉を見出した点、そしてそれをうまく物語に昇華した点もお見事です。ずいぶん回りくどい謝罪ではありますが、事なきを得てほっとしました。そうめんの豆知識も楽しい一作でした。

アイデア部門 特別賞

  • 読むとおにぎりの具が変わる本 リュウセイ(神奈川県横浜市 茅ヶ崎台小6年)アイデア
  • とうみんする本 リーリー(伊予郡砥部町 麻生小4年)アイデア
  • 水の中が見れる本 髙橋知乃(松山市 粟井小4年)アイデア
  • みかんの香り本 北地菜々美(松山市 道後小4年)アイデア
  • オルゴールになれる本 小川洋子(大洲市)アイデア
  • 読みまちがえるとイライラする本 四皇(松山市 荏原小4年)アイデア
  • 感動しないとしつこくなる本 吉村史年(埼玉県さいたま市)アイデア
  • 読んだ文字がグミになる本 本多季帆(松山市 みどり小3年)アイデア
  • SNSをする本 さとし(松山市 荏原小5年)アイデア
  • おじいちゃんしか解読できない本 渡邊和心美(宇和島市 宇和島東高2年)アイデア

たくさんのご応募をありがとうございました。