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消えゆくマッチ

2017年3月30日(木)(愛媛新聞)

 夏目漱石は坊っちゃん列車を「マッチ箱のような」と形容した。小さいものの「代名詞」だったマッチ箱。いつの間にか実物を見なくなった▲

 使い捨てライターの普及が主因。家庭用マッチで国内最大手の兼松日産農林が明日、製造販売事業から撤退する。「桃」や「象」が描かれた箱に郷愁を覚える人が多いのでは。商標は他社に譲渡され残るものの、一抹の寂しさがある▲

 日本のマッチ製造は1875年に始まった。乾燥した気候が生産に適した兵庫県が製造の中心地になり、今も国内シェアは9割。明治から大正時代にかけて、マッチは生糸や銅と並ぶ三大輸出商品だった▲

 しかし生産量はピークだった1973年の約79万マッチトン(1マッチトンは約32万本)から、2010年には1万マッチトン余りにまで減少した。約80年前に製造を始めた兼松も、最盛期は国内十数カ所に工場を持っていたが、今は淡路工場の1ラインだけ▲

 一方で復権の動きもある。東日本大震災で見直され、ろうそくと一緒に缶詰にした災害備蓄品や、水にぬれても使えるアウトドア用の需要が少しずつ増加。安全対策のため着火レバーが重くなったライターを敬遠し、マッチに回帰する高齢者も▲

 芥川龍之介は「人生は一箱のマッチに似ている。重大に扱うのは莫迦々々(ばかばか)しい。重大に扱わなければ危険である」と「侏儒(しゅじゅ)の言葉」に書いた。たかがマッチ、されどマッチ。まだまだ消えないでほしい。

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