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悲劇の先に(中)転機 悲しみ繰り返さない 当事者が自発的に活動

2022年7月17日(日)(愛媛新聞)

西条市内の小学校でライフジャケットの着用講習会を開く久保一平さん=6月17日(画像の一部を加工しています)

西条市内の小学校でライフジャケットの着用講習会を開く久保一平さん=6月17日(画像の一部を加工しています)

 2012年7月20日にお泊まり保育中の川遊びで幼稚園児が流され、吉川慎之介ちゃん=当時(5)=が亡くなった事故から4日後。西条市の加茂川で有志による「現場検証」が行われていた。この時点では、遺族ですら事故の詳細な状況は知らされていなかった。「園児の記憶が薄れる前に、調べておいた方がいい」。事故直後に保護者らが集まった際に出た意見を基に、自主的な調査に乗り出すことになったのだ。

 

 参加したのは一部の園児と保護者ら。「先生はどこにいたのか、覚えているかな?」「浮輪とかロープとかを持った先生はおった?」。問いかけに園児は記憶をたどり、一生懸命に答える。約1週間後には幼稚園の職員も参加し、同様の調査を実施した。ここで初めて、当事者らは事故当時の様子を知ることになったという。

 

 この調査やその後の裁判などで、救命具やライフジャケットなど園側の準備が不十分だった上に、緊急時の対応など安全に関するノウハウが職員間で共有されていなかったことが判明した。それらの実態は、同園に限らないことも分かった。

 

 「防止策や事故後の検証、当事者への対応などのルールがないことを初めて知った」と、慎之介ちゃんの母の吉川優子さん(50)は振り返る。このままでは、同じ事故が繰り返されることになる―。当事者の多くが同じ不安を抱き始めていた。

 

 優子さんは14年、子どもの水辺の事故防止のための「吉川慎之介記念基金」を設立。基金を活用し、全国でライフジャケットの着用推進や子どもの事故防止を考える講座開設に携わった。今も啓発活動のためさまざまな会合に出席し、自身の経験を話す。行政や大学関係者を訪ねて知見を広げる活動も続けている。

 

 加茂川の事故で、子どもが参加していた山崎敦子さん(51)や新名直子さん(46)らも、17年に市民団体「Love&Safetyさいじょう」を立ち上げた。イベントなどでライフジャケット着用を呼びかけたり、講座開催を支援したりしている。

 

 当時現場で救助活動に当たった久保一平さん(50)は現在、加茂川近くでアウトドア用品店を経営している。ライフジャケットの貸し出しのほかに、西条市内の小中学校で着用体験会を実施したり、加茂川の危険箇所や注意点を記した自作のマップを配布したりするなど独自の取り組みに力を入れている。

 

 これらの当事者の共通点は、事故を契機に自発的に活動を始めたところにある。5歳の子どもが亡くなるという悲痛な思いをしたことが、この10年間でさまざまな草の根の活動につながった。

 

 優子さんは言う。「10年前とは活動の種類も大きく変わった。大きな取り組みはできなくても、一人一人がやっていくしかない。今も試行錯誤で、ずっと実験をしているようなものですよね」(高橋圭太)

 

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