西日本豪雨4年
災害時、井戸で生活用水 宇和島市が民間628ヵ所登録
2022年7月5日(火)(愛媛新聞)
災害で上水道が断水した場合に必要な生活用水を確保しようと、宇和島市は民間所有の井戸を市民が広く利用できる制度を設けている。2018年の西日本豪雨災害では活用した例もあったが、周知が行き届いていないといった課題も浮かんでいた。地域で井戸をどう運用するかなど、円滑に役立てるための取り組みは途上にある。
【無償提供 円滑運用へ周知図る】
「飲料水は手に入ったが、生活用水の確保が大変だった」。同市消防団三間方面隊女性消防団の班長男武美和さん(58)は振り返る。当時、親しい知人の井戸からもらった水をトイレや風呂で利用した。「本当に助かった。井戸があると便利だと実感した」と感謝する。
豪雨災害では、土砂流入で吉田浄水場(同市吉田町立間)が機能不全となり、吉田、三間両地域のほぼ全域が断水。解消には1カ月以上を要した。多くの被災者は各地に設けられた給水所まで出向いて生活用水を確保したが、一部で地域の井戸が活用された。
市は13年度から、井戸を所有する市民や事業者に対し、断水時に井戸水を無償提供する「災害応急用井戸」の登録を呼びかけている。現在628カ所を登録。19年度からは井戸の所在情報を市ホームページ(HP)で公開しており、同意を得た502カ所を地図上にまとめている。
井戸の登録者で同市三間町宮野下の酒販売店「KOUJIYA」は、豪雨災害の際、断水解消まで井戸を開放した。店主の高山雄大さん(39)は、保健所の水質検査を受け、飲用可能であることを確認。交流サイト(SNS)やチラシで情報提供したことで、ほぼ毎日利用者がいたという。
「提供する側の積極的な情報発信が必須」と高山さん。登録井戸を知る人が少ない中、周知は提供側に委ねられているのが実情だ。また、三間の女性消防団の松岡美里さん(44)は「いくら登録していても、知らない人の家に行って水をもらうのは遠慮してしまう」と話す。
市は「登録井戸の運用は自治会に任せている」としており、断水時の円滑な利用には、地域ごとに運用方法を定めるなど事前の準備が鍵となる。
一方、市では災害応急用井戸とは別に市が所有・管理する「防災井戸」の設置を22年度計画している。公民館や小中学校といった指定避難所の計9カ所で新たに井戸を掘ったり、既存の井戸に手動のポンプを設置したりしており、23年度の使用開始を予定している。
市が管理することで、民間管理よりも気軽に利用できるメリットもある。防災井戸は平時から無料で開放し、地域の人に存在を知ってもらう。市危機管理課は「災害時に円滑に水が供給できるよう、HPやSNSを活用し、井戸活用の周知徹底を図りたい」と話している。