フロッピーディスク まだ現役?(山陰中央新報)
2022年7月3日(日)(友好社)

かつて官公庁や企業で幅広く使われたフロッピーディスク

かつて官公庁や企業で幅広く使われたフロッピーディスク
山口県阿武町で4月、町民463世帯に向けた給付金総額4630万円を、誤って1世帯の口座に振り込んだ問題が全国を騒がせた。金額の大きさもさることながら町が銀行との手続きに「フロッピーディスク(FD)」を使用していた点が話題になった。最近はめっきり見る機会が減ったFDだが山陰両県では現在も使われているのか、調べてみた。
FDはパソコン用の記録媒体で、樹脂製の保護ケースに磁気ディスクが入ったもの。パソコン本体や外付けの専用読み取り機に差し込む形式で、特に1990年代に多く使われた。より記録容量の大きいCDやUSBメモリーの台頭に伴い、徐々に使われなくなった。阿武町の報道では町が金融機関に給付金の振り込み手続きをする際、普段から職員が振り込み先リストのデータをFDに保存して提出するとあった。
山陰では、島根県と県内19市町村のうち9市町村が、鳥取県と19市町村のうち13市町村が、使用していた。山陰両県の半分以上の自治体でFDが現役。全く使わないという自治体の方が少ないのは意外だ。
島根県では現在、通常の業務でFDを使うことはない。県情報システム推進課は「業務で使うパソコンは課で一括購入するが、どれもFDの読み取り機能はない。外付けの読み取り機を使ってまでFDを使う職員はいないのでは」と話した。
金融機関とのデータのやりとりはFDやUSBメモリーといった外部記憶媒体は使わず、すべて専用の端末からデータで送る「伝送形式」で行うという。FDを使わないと回答した他の自治体も伝送でやりとりするとのことだった。
FDを使っているとした自治体の中には、阿武町のように振り込み手続きで使用する自治体はなかった。多くは公共料金などの口座振替の際、特定の金融機関に対してFDを利用する機会があるという。住民の口座から公共料金を引き落とす際、自治体はどの口座から何の名目でいくら引き落とすか、金融機関に口座振替のデータを提出する必要がある。
島根県津和野町では通常、各種税金や国民健康保険料などを引き落とす口座情報を金融機関に伝送するが、金融機関によってはFD形式で提出を求められるという。健康福祉課は「各課の職員が、外付けのFDドライブ(読み取り機)を使ってパソコンからFDにデータを移し、金融機関の窓口に持参している」と説明した。県で「いないと思う」と言われたやり方は一部の自治体では当たり前に行われていた。
安来市でも同様に、一部の金融機関にFDで口座振替のデータを渡すという。会計課は「形式を変えるには新たなシステム構築など金融機関との調整が必要。市の意向だけで変えるわけにもいかず、昔からの形式がそのまま続いている」と理由を話した。大田市、鳥取市、吉賀町なども同様の使い方だった。提出したFDは金融機関が、振り替えを正常にできたのかどうかの結果データを入れて返送するという。つまり、昔からあるFDを口座振替依頼のたびに繰り返し使っている。いずれの自治体も「徐々にUSBメモリーなどの別媒体や伝送形式に移行しようとは思っている」としているが、今のままでは経年劣化によりいつか役場のFDの在庫がなくなる日が来そうだ。
米子市では口座振替の際、役場内のみでFDを使う。役場内に口座振替のデータを金融機関に伝送する端末があり、この端末へデータを入力する際にFDを差し込んで使うという。前述の自治体と違い、データのやりとり自体は伝送なのにデータ入力の段階でFDを使うというパターン。FDを読み込める端末が残っている点にも驚きだ。市情報政策課は「FDが主流だった頃からの名残で今も使われ続けていると思う。USBメモリーで入力する課もあり、混在している状況」と話した。島根県西ノ島町、鳥取県智頭町なども同様の使用方法だった。
金融機関の考えはどうなのだろうか。島根銀行(松江市朝日町)業務管理グループは、FDで各種手続きをする取引先は現在も複数あるとしつつ「銀行としては、やりとりはFDなどの外部記憶媒体ではなく、伝送を主流としている所が多いのでは」と話した。
FDは本体の生産が既に終了し、読み取り機を今も販売するメーカーは少ない。本体も読み取り機も多くは保守期間が終了し、今後も重要なデータをFDでやりとりしていくことには懸念がある。銀行として時折、やりとりの中で別媒体や伝送への移行を呼びかけるが、FDを長く使っているところからは断られることもあるという。「もし、伝送への移行を考えている企業や自治体があれば早めに相談してもらえるとありがたい」と明かした。
一部には機材設備の問題でFDからしかデータを引き出せない金融機関もあるらしく、ある自治体の担当者は「本当は伝送に統一したい。金融機関に何度か頼んでいるが変わらず、仕方なくFDでのデータ渡しを続けている」とこぼした。
山陰両県でFDを使っている自治体は思ったよりも多かったが、あえて使っている自治体もあれば、何かしらの都合で渋々使っている自治体もあった。昔懐かしいFDが身近で現役だったことは感慨深い。取り扱いについては、住民へのサービス向上を第一に考え、自治体と金融機関、双方で連携した上で最適な方法を探ってほしい。(山陰中央新報)
【愛媛でも一部市町で使用】
愛媛県と県内20市町に聞いてみると、金融機関との手続きでフロッピーディスク(FD)を使用している自治体はなかった。多くが、専用端末などからデータで送信する「伝送方式」を採用。一部では、金融機関との兼ね合いで、同方式とCDやDVDなどでのやりとりを併用していた。
ただ、大洲市と松前町、伊方町は庁舎内で情報共有する際、USBメモリーなどとともにFDを使用していた。「FDのストックがまだあるため」(伊方町)などが理由というが、現在は入手が困難なことから、劣化が進み在庫が切れれば姿を消しそうだ。(月岡岳)