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2021
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㊤引退後 「一番弱い子が将棋をやめたら、僕の中では失敗」・四国中央市出身

 「次の手はどうする?」「ああ惜しいな。こうしてみよか」―。10月上旬、兵庫県宝塚市の自宅。大きな将棋盤を10人ほどの子どもが囲み、森が一手一手に解説を加える。新型コロナウイルスの影響で一度に集う人数は減ったが、教室がある日の玄関は小さな靴で埋まる。

 2017年に棋士としての第一線を退く以前から、自宅を開放して将棋教室を開いている。「もともとは子どもが苦手だった」と森は明かす。特に現役のころは、教室に来ても将棋を指さず遊んでいるのを見ると気持ちがなえた。「でも、だから向き合ってみたい。やってみたいと思った」。ここ2、3年で意図的に教室の場を増やしている。「正直、頼まれたら断れないというのもあります」と笑いながら、週末は自宅、平日は大阪や京都にも足を延ばし「教室漬け」の毎日を送っている。

■弱いなりの理由を考える

 

プロ棋士の森信雄さん。後進の育成に力を注ぎ続ける

 初めのころは失敗も経験した。20~30人の子どもの前で駒の動かし方をあれこれ伝えるが、気がつくと誰も前を向いていない。「あのう、先生、難しすぎて分かりません…」。近くで見ていた保護者も眉をひそめる。子どもたちは正直で、関心のないものには目を向けない。どうにか飽きさせないよう、クイズを入れたり話すテンポを変えたり。「前もって何か仕込まないとダメ。適当にしようとすると、すぐばれる」

 「最年少四冠」に輝いた藤井聡太の活躍もあり、世は将棋ブーム。ルールを知らないまま習いに来る子どもが増えたと感じている。彼らと向き合う森は一つの指標を掲げる。「一番弱い子が将棋をやめてしまったら、僕の中では失敗だと思っている」。初めのころ、教室に来たある子が「なぜ弱いのか」理由が分からなかった。それから、その子の将棋をじっと見るように。「こちらが一生懸命見ないと分からない。弱い子には、弱い子なりの理由がある。そこを考えるのが面白い」

■全力で向き合う

 

兵庫県宝塚市の自宅で将棋教室を開く森信雄。「初めは子どもが苦手だった」という

 ただ初心者が増えたからといって、将棋の楽しさだけを教えることに傾倒しない。「楽しくしないといけないというのはウソ。やっぱり勝たないと。その子なりに強くなって、力を伸ばしてほしい」。ルールを覚え、対局を重ね、勝つ喜びを感じる。さらに時間をかけて「将棋の面白さ」にいき着く。そうして没頭するのを見るのが、森はうれしいという。

 もうすぐ70歳を迎える森。今の目標は「将棋教室のプロになること」だという。「引退して1年くらいだったかな、教室でも何でも中途半端にはしたくない。そう思うようになった。子どもの将棋に関わりながら、全力で自分に向き合ってみたい」

 「向き合う」という言葉に、少し熱がこもっていた。

 

「弱い子には弱い子なりの理由がある。その子をじっと見ないと分からない」と森は言う

 

【Special E:名伯楽の棋士育成論】

名伯楽の棋士育成論 特集TOP

上:引退後 「一番弱い子が将棋をやめたら、僕の中では失敗」

中:師弟 「村山君と出会って、自分はプロ棋士失格だと思わされた」

下:理想 「普通の子が棋士になり、努力が報われる世界でないと将棋界に魅力はない」

 

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