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【11月22日更新】実は地域限定!? 謎多き愛媛のちょうちん行列に迫る

 「もーてーこい、もーてーこい、こーのーいーえ(家)繁盛せえ」。重なる小学生らの声とともに、夕闇にうっすらと浮かび上がるちょうちんの明かり。それは列となって地域の家々を渡り歩き、家主から菓子や祝儀を受け取っていく。秋祭りの前夜などに行われる伝統行事「ちょうちん行列」のワンシーンだ。
 旧松山市や松前町の住民にはなじみのある光景かもしれないが、実は県内でちょうちん行列があるのは中予のみとされ、方法も地域によって千差万別。知っているようで意外と詳しく知らない、ちょうちん行列のルーツなどに迫った。
(竹下世成)

■「もてこい」とは?

 

大人だけで行われたちょうちん行列。フェースシールドなど感染対策を徹底した

 私が生まれ育った同市古川地域では冒頭の掛け声を使っており、他の複数の地域でもテンポの違いはあれど「もてこい」という言葉が用いられていた。どんな意味があるのか。県内の民俗調査に取り組む県歴史文化博物館(西予市)の大本敬久専門学芸員に尋ねると、「どれが正解かの明確な答えはありません」とした上で、参拝を意味する「詣でる」や、みこしが近づいてくることを住民に呼び掛ける「もう出てこい」から派生したのではと説明する。

 みこしの鉢合わせなどの際にかき手が相手に向かって叫ぶ「もってこい」は、松山市で秋祭りの際によく流れる「神輿(みこし)音頭」の歌詞にも使われている。ただ、大本さんは「道後の鉢合わせなどが現在のスタイルになったのは1980~90年代。そこから、ちょうちん行列に波及した可能性は低いのでは」。

 ちなみに、愛媛FCのチャント(応援歌)の一つに、「Hey!come on!」「もーてーこい!」と掛け合う曲がある。サポーターズクラブ「ラランジャ トルシーダ」代表の松本晋司さん(54)は「もてこい」の意味は「詣でる」だとした上で、「サッカーはチームをサポーターが支え、ぶつけ合うイメージ。祭り好きにも足を運んでほしいので」とけんかみこしをイメージした掛け声を採用している。

■各地で違い

 

郷土史に関する資料が並ぶ県立図書館

 松山市各地の神社や町内会などに取材を進めると、「もてこい」以外にもさまざまな掛け声の存在が浮かび上がってきた。把握しただけでも、
・わっしょい(複数)
・わっこえいや、わっこい(勝岡地区)
・いこーぜよ(三津浜地区)
・やーおいやーおい(山越地区)
・よいなーよいよい(高浜地区)
・回れ回れこの家繁盛せえ(西石井地区)
・伊勢音頭(谷町地区)など。
日数なども地域によって大きく異なるが、多くは町内会や子ども会が運営しており、その数は計り知れず全ての把握は困難そうだ。

 より詳細な情報をと、市内各地の歴史や文化をまとめた資料が並ぶ県立図書館(同市堀之内)に足を延ばす。2008年に北土居地区の住民有志が発行した郷土史誌には「『チョーイ、チョーイ』と北土居独特の掛け声を出して各戸を廻った」、余土小学校が編集した資料にも「もてこい、もてこい」との掛け声だと記載がある。ただ、みこしなど秋祭りに関する記述がある資料は多いが、ちょうちん行列に言及した物は極めて少ない。その上、掛け声の理由や、開始時期など、ちょうちん行列の根本に関わることはほぼ触れられていない。なぜなのか。

■研究者がいない!?

 

「社会教育システムとして非常に大事な役割がある」と語る県歴史文化博物館の大本敬久さん

 再度、大本さんに聞くと「ちょうちん行列をちゃんと調べた人がほとんどいないんじゃないかな」。多くの住民にとって当たり前のように引き継がれてきた行事ゆえに、特別視されなかったことも資料が少ない一因と分析する。

 大本さんによると、昔の秋祭りでは、たいまつで神社に灯をともして神様を迎え、江戸時代以降はちょうちんが主流に。東予は、だんじりや太鼓台が明かりを照らしているが、中予はみこしの「お供」が発展しなかったこともあり、ちょうちん行列として残ったとされる。

 明治時代に市内各地の神社にみこしなどの文化が広まる際、ちょうちん行列や掛け声も同じように拡散したとみられ「古くから続いている地域は、掛け声が複雑で、広まるにつれてシンプルなものになっているはずです」と説明する。

 秋祭りの時季になると、ちょうちん行列に関する問い合わせが県歴史文化博物館にもあるという。「ともすれば、子どもが菓子を求めてうろつく行事と思う人もいますが、社会教育システムとして非常に大事な役割があるんです」と大本さん。児童は年長者の中学生や大人に連れられて、地域のどこに、どんな家や施設があるかを学び、地域への愛着などを育む。「それに、夜に外で大きな声を出せるのはこの時だけ。ストレス解消にもなっていいんですけどね」。新型コロナウイルスの感染が広まり、子どもも窮屈さを感じている今こそ、ちょうちん行列は必要な行事なのかもしれない。

■ちょうちんの明かりを絶やすな

 

掛け声なく、鈴を鳴らして回る山西仁喜多津会のメンバー。例年だと子どもが列を作り、にぎわう

 神社や町内会に取材すると「今年もやらん」「子どもが集まることへの懸念の声があったんよ」と、新型コロナの影響で昨年に続いてちょうちん行列はほぼ中止。そんな中、同市山西地区で「大人」のちょうちん行列を行うと聞き、急いで現場に出向いた。

 10月6日午後7時。同市山西町の味生公民館山西分館に法被姿の男15人が集まった。朝日八幡神社(同市南江戸5丁目)の祭礼に、みこしを出す山西仁喜多津会の面々だ。フェースシールドを着けてちょうちんを持つが、やはり子どもの姿はどこにもない。

 同地区は7日に、感染症対策を徹底して大みこしを出す予定だった。そこで必要なのが前夜に実施するちょうちん行列。町内に祭りの訪れを告げるとともに「みこしが通る道を清める意味合いがある」と伝えられてきた。例年は、3班に分かれた地元の小学生約60人が「わっしょい」と掛け声を上げながら、3日間かけて町内を回る。

 

「大人」のちょうちん行列出発前に注意事項を伝える溝田さん(左)

 山西連合町内会の清水基会長(64)は半世紀以上前の光景を思い返す。当時は10月1日から1週間、子どもがちょうちん片手に夜道を歩いた。住宅は少なく、辺りは田畑ばかり。毎日、歩き終わればせんべい2枚が配られ「あの頃は貧富の差も大きかった。貧しかったけん、菓子と聞いて大喜びで回りよったもんよ」と破顔する。

 平成に入った頃に、日数が3日間に変更。時代の移ろいとともに、祭りの形も徐々に変わってきた。その一方で、変えてはいけないものもある。「やめることは簡単だ。コロナとか、いくらでも理由はある。ただ、どうすれば続けていけるか。知恵を出さんといかん」と後輩らに呼び掛けてきた。

 9月に入っても、市内で児童・生徒の感染が続いたため、昨年と同様に子どものちょうちん行列の中止を決めた。苦渋の決断をした大頭取の溝田直也さん(43)も「子どもを心配する親の気持ちも分かる」。一方、子どもから「おいちゃん、今年祭りないんか」などと問われ、心が痛んだ。

 6日夜は、例年通り3班に分かれて出発。ちょうちんや鈴を使用前後にアルコール消毒し、掛け声はもちろん禁止だ。「カラン、カラン」と鈴の音だけが住宅街に響く。いつもは行列が近づけば、幼児らも家から出てきて列に加わるが、今年はない。頭取の西山博喜さん(37)も「やっぱ子どもがおらんのはさみしいね。集会所に帰った時には、最初よりめちゃくちゃ人が増えとるんよ」と振り返る。

■なぜ、続けるのか

 

入念にちょうちんのアルコール消毒を行う山西仁喜多津会のメンバー

 約2キロの行程を、1時間かからずに歩き終えた。例年よりずいぶん、早い。祭りの準備を終えた充実感と、子どもがいない物寂しさがにじむ。ただ、溝田さんは力を込める。「祭りやちょうちん行列をやらんなったら『こんなに楽なんか』と思う住民も出てくるはずなんです。そうなると、続かない。地域の伝統は途絶えさせちゃいけないんです」

 この夜の道中でも「このお地蔵さんってどんな御利益があるんやっけ」などと確認し合った。地区内の小さな社などの名前や意味も、ちょうちん行列で子どもに伝えてきた。単なる菓子を集めるイベントではなく、地域の伝統を次の世代に引き継ぎ、愛着を持ってもらう重要な行事だ。

 「去年も『今年は我慢しよう』って言ってたんですけどね。まあ、来年こそは再開できるはずですよ」と溝田さんは希望を口にする。子どもたちの元気な掛け声とともに、いつものようにちょうちんの灯が戻り、ずっと続いていく。そう、願って。

■情報求む!!

 

【皆さまから寄せられた情報(直近1カ月分)】
「桑原地区:わっしょい、わっしょい」(1990~2010年代) 「松前町東古泉地区:もてこーい、もてこい」
「吉藤地区:えんえんやーあ(えいえいやー)わっしょい」(1990~2000年代) 「来住町地区:わっしょいわっしょい、まーわれまーわれ」
「上伊台町、下伊台町地区:えーんやーやちょーさや」(1980年代~現在)  「伊台地区:えんやらちょさや」(1990年代~現在)
「御幸2丁目地区:やーおい、やーおい」(1970年代)  「久保田町地区:もーてーこい、みんなーこい」(1980年代)
🆕「鷹子町地区:わっしょいわっしょい」(2010年代以降)  🆕「小坂二丁目地区:わっしょいわっしょい」(現在)
🆕「古川町地区:もってこい、もってこい、この家繁盛せい」(1980,90年代)  🆕「保免西地区:もーてーこーい」(2010年代)
🆕「竹原3丁目地区:やーおい」(2010年代)  🆕「土居田町地区:もーてーこい」(2010年代)
🆕「東垣生町地区:もーてーこい」(2000年代)  🆕「南吉田町地区:もてこーい」(2010年代)
🆕「和泉北2丁目地区:もーてーこい」(2000年代以降)  🆕「東野1丁目:掛け声なし」(1970年代)
🆕「来住町地区:たっかはーりや〜ぁたっかはーりや」(現在)  🆕「来住町地区:たかはりじゃ」(2010年代)
🆕「上市一丁目:ちょうちん行列なし」  🆕「保免中地区:もーてーこーい、もーてーこい」(2010年代)
🆕「北土居2丁目地区:ちょーいちょーい」(2010年代)  🆕「東野上地区:わっしょい、わっしょい、、、まーわれ、まーわれ」(1970,80年代)
🆕「河野中須賀松の木地区:ちょうちん行列なし」  🆕「束本地区:わっしょい」(2010年代以降)
🆕「溝辺町地区:やーおい」(現在)  🆕「南江戸6丁目地区:もてこい」(現在)
🆕「鷹子町地区:わっしょい」(2000,10年代)  🆕「南江戸6丁目地区:もってっこーい」(2010年代)
🆕「東野地区:わっしょい」(2000,10年代)  🆕「朝美町地区:わっしょい」(2010年代)
🆕「松之木1丁目地区:よいな、よいよい」(現在)

 「私の地域にもちょうちん行列があった」「ちょっと地図のとは違うかも」と関心を持った人は、ぜひ専用フォームから情報を送ってください。上記地図の掛け声は一例で、同じ小学校区内でも町内会によって様式はさまざまです。随時、上の地図に反映するので、ご協力よろしくお願いします。

 

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