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2021
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夜の街 ほほ笑みの陰り

 松山市の繁華街はママが個人で経営するラウンジやスナックが多い。県内で新型コロナウイルスの感染が確認されて1年半近く。時短要請期間は今年、計約90日に及び、再開後も客足は戻らない。ママやキャストの間から「年内にワクチンの効果が出てこないと本当に厳しい」という声が漏れる。華やかな夜の仕事はシングルマザーらのセーフティーネットという側面を併せ持つ。女性たちのほほ笑みの陰で日増しに焦燥と不安が膨らんでいる。
(8月2日付紙面の詳報です)

お客さまとの「距離」

 

感染防止に細心の注意を払うママの生実かよさん。キャストと共にマスクをつけ、離れた席に座って接客している

 「きょうはお客さま、来てくれるかな」。全国の感染者が過去最多を更新した7月28日、松山市二番町1丁目の「会員制ラウンジ真愁(ましゅう)」のママ、生実(いくみ)かよさんは少し心細そうだった。午後9時半ごろ、扉が開いて男性客が現れる。「あ、いらっしゃーい」。赤いドレスのキャストが入り口で非接触体温計を持って迎え入れた。

 手を消毒した男性客はカウンターへ。「ママ、いつもの」。生実さんは微笑を浮かべながら手指消毒し、グラスに氷を少しはみ出すくらいまで入れて、マドラーでよくかき混ぜて冷やした。オリンピックの話題に相づちを打ちながら、男性がキープしていたウイスキーを注いで炭酸で割り、今度はとてもゆっくり、柔らかくマドラーを回す。琥珀(こはく)色のハイボールをそっと男性の前に置いた。

 真愁では新型コロナウイルスが広がってから、もてなすのは一度に2組まで。1組目が5人を超えると、それ以上の入店は丁重に断る。約50平方メートルの店は広々と見える。

 

ビル3階にある会員制ラウンジ真愁。エレベーターが開くと芳香が広がり、ドアの小窓から柔らかな光がこぼれていた

 もともといちげんさんお断り。コロナ流行後は名刺を受け取って名前を全て把握している。密になるので収入源だった周年イベントやキャストの誕生日祝いもやめた。「本当は街に出ないようにしているけど、ここなら安心」。常連客からはそんな声も聞こえてくる。

 ただ生実さんらには複雑な思いも。「どうしてもお客さまとの距離を感じています」。感染防止のため、キャストが隣に座ることは控えている。「隣に来てよ、と言う方がいらっしゃらないので、やっていけてる感じです」

 客の誕生日に用意してきたお祝いのケーキもシャンパンに変えた。  「小さなことですけど、最初の一口をあーんって、してたのもできなくなったので。それに万が一、お客さんが『これおいしいよ、食べてみて』と言った時、今までだと女の子によっては気にしないで食べていたけれど、断らないといけないので気まずくなりそうでした。そういう空気をつくらないためにも控えることにしました」

 売り上げは従来の半分もいかない。接待や、領収書を切る企業関係の利用がぱったりとなくなり、個人で来店する会社経営者が中心になっている。県の時短要請期間中は全て休業した。

 生実さんは2017年、手持ち資金をほぼ使い切って真愁をオープンした。5年目でようやく蓄えができ、法人化してキャストのために社会保険に入ろうとしていたころ、新型コロナが広がった。税理士に「赤が出るうちは」と法人化を止められた。

 店を開けてもテナント料と固定経費で利益は消え、手元に残らない。キャストの給料も減ったので、生活できるようにと自分の貯金を崩して上乗せし続けた。「大変だ、底を突く」と思った時、国の持続化給付金に助けられた。100万円がキャストたちに振り込まれ、急場をしのいだ。「(経営が)行き詰まる怖さは感じています。その時が来たら、どうしようと考えています」

求人に応募はなく

 

コロナ禍以降、繁華街への風当たりは強まる(写真は本文とは関係ありません)

 市内で別のラウンジを経営するママは1人で店を切り盛りする日が多くなった。休業に伴ってキャストの数を減らした後、繁華街でクラスターが発生。学生アルバイトらが「感染が怖い」「夜働いているのがばれそう」と言って辞めることが増えた。求人してもなかなか応募がない。

 繁華街への風当たりの強さを感じる。最近、店で働き始めたシングルマザーのキャストから、しばらく夜の仕事を離れていたわけをこう聞いた。「子どもの通う学校で『夜の仕事をしている人から感染が校内に広がるのが不安』とささやかれていたので…」

 赤字が続く中、店の運営を細かく見直してコストカットに努めている。生花を飾るのをやめ、トイレのペーパータオルは安価な再生紙に。テナント料減額の交渉を続け、店舗数を減らすことも考えている。

 コロナ禍でダメージを受け続けた繁華街は、ここからが最も苦しいと見込む。「私たちの勝負時は11月からクリスマスごろまで。ワクチンの効果は大きいと感じていますけれど(希望者全員の接種完了は)早くても11月くらいでしょう。お客さまも様子を見るはず」。仮に11月以降に重症者や死者が減ったとして、世間がワクチンの効果を実感して繁華街に人が戻るまでにどれくらいかかるのか―。

 東京を中心に全国的に感染拡大の様相を呈し、愛媛も徐々に感染者が増えてきている。「このまま忘年会シーズンにお客さまが戻ってこなかったら、12月までに(経営が)傾くお店が相当出てくると思います」

 男性客から「頑張って」とメッセージが届くと複雑な気持ちになる。「仕事なので『ありがとうございます』と返します。でも、どう頑張ったらいいか分からないんです。いくら頑張っても仕方がないことをどう頑張れっていうの、努力してできることなら、もうやってるよって思うんです」

生活できない

 

休業を決めたスナックの張り紙(写真は本文とは関係ありません)

 「夜がなくなったら生活できないと思います。細々とでも続けていけたら」。シングルマザーの40代女性(松山市)は昼はカフェ店員、夜はラウンジのキャストというダブルワークを続ける。

 時短要請期間中、ラウンジは休業していた。要請解除後も客足は戻らず、ママは「同伴」や予約のない日は売り上げが見込めないので、店を開けなくなっている。同伴はキャストと客が店外で会い、食事を共にするなどして店に行くこと。営業時間も短くなった。時給制で働くキャストの報酬も、その分減った。

 キャストは客から同伴や予約を入れてもらえないと働けない。女性はほぼ普段通り出勤できた月もあったが、数日だけということもあった。そんな月は収入が10万円以上減る。

 生活のため、カフェでの勤務時間を増やした。「昼の仕事をやっていてよかった。救われた」。夜だけ働いていたキャストの多くが昼の仕事を探している。「見つからない」「もう家賃を払えない」。繁華街にはキャストの悲鳴が漏れ伝わる。

 女性はカフェ店員の仕事が好きだという。「夜も楽しいですが、やっぱりしんどいです。お酒も飲むし。子どもを保育園に預けるには昼の仕事の就労証明書もいりますし」

 だが、夜に働けば昼間は子どもと一緒にいられる。それにママは融通を利かせてくれる。一部の店にある当日欠勤の罰金もない。子どもが急な病気をした時も心配ない。何より時給が高い。カフェは900円。ラウンジは2500円。今年は高額の臨時手当も出た。ママも苦しいだろうにキャストのために身銭を切ってくれた。

 「昼(の仕事)だけで夜の給料をもらおうと思ったら、どれだけ働いたらいいんだろうって、つくづく思いました。夜が全くない時に昼間にたくさん入って給料をもらった時『これだけ? 半分にもならんやん』って。8時間働いても7200円でしょう…」

 高齢出産だった。息子がいずれ高校、大学に通うときのために蓄えがいる。努力して学資保険の保険料は払い終わった。だがコロナによる収入減で、自分の老後のための生活資金がためられなかった。

 「夜の仕事は若いときに頑張って、生きていかないといけない。多分限界もあるんです。あと4年か、5年か。その先は…。コロナで夜に働けないのはつらい。私は資格がないので。車の免許はあるけどペーパーだからよう乗らんし。ただ、何をしてでも働けるとは思ってるんです。年金は(繰り上げ受給を)60歳からもらおうと思っています」

 日ごろから節約している。「もともと物欲がないので、服も全然買わない」。コロナが広がってからは食品も値引きした商品を選んで買う。

 市などから一人親世帯に複数回の給付金があり、「本当にほっとした」。ただ、時短協力金は経営者にだけ手渡される。「店で働く人に少しでも出るといいいんじゃないかなと思います」

【取材を終えて】一律の時短要請や感染防止政策 再考の時期

 

新型コロナ第5波が到来。松山の繁華街からまた人影が消えた

 繁華街では感染防止に努める店と、ほぼ対策をしていない店が混在している。複数の関係者によると、売り上げ減に苦しむ中で数十万円かけて空調機器などの設備投資をしたり、入店人数を制限したりするオーナーがいる一方で、マスク着用も不十分な店がある。

 陽性者が出た場合の封じ込めの難易度も異なる。小規模で来店客の氏名を全て把握している店から、大規模で新規の客が多く、店名公表以外に濃厚接触者の把握のしようがないところまである。

 感染が広がると、これらの店舗全体が行政から「繁華街」「酒類を提供する店」というくくりで、一括して営業時間短縮要請を受けている。

 店のオーナーらは時短の協力金には感謝している。「休業に伴って1日いくらという補償は大変助かった。計算もできたので」「安心感がある」。そのため時短要請の理不尽さに対してオーナーらの口は重いが、やりきれない思いを抱えているのは事実だ。

 また、これまでの時短要請では一部で「協力金バブル」も起きた。複数の関係者によると、店舗によっては協力金が実際の利益を大きく上回る事例があった。

 繁華街全体でクラスターを起こさないようにしようと、県社交飲食業生活衛生同業組合などが懸命に活動を続けている。こうした業界の一体的取り組みは重要だ。ただ店舗ごとの対策のばらつきが大きい現実を踏まえれば、時短要請や、協力金の在り方を含め繁華街の感染防止政策を再考する時期が来ているのではないか。

 また、今後重要なのは、ワクチン接種を行動制限の緩和につなげて、経済回復にどう生かすかだ。ポイントは、接種できない、しない人が不利益な扱いを受けない仕組みの構築になるだろう。

 ワクチンの効果を十分に検討する必要はあるが、県内は東京や大阪のような感染状況ではない。ワクチン接種による行動制限の緩和はより容易かもしれない。政府は今秋にも希望者全員の接種が完了すると説明しており、機を逃さないようにしたい。経団連などは国にガイドライン作成を提言している。自治体レベルでも地域性を踏まえた出口戦略の議論を進めていくことが必要だ。(二宮京太郎)

 

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