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守れるか、愛媛のホタル

 川のせせらぎとともに、黄緑色の光が闇夜に漂う。多くの人々がその幻想的な風景に見とれ、シャッターを切り続ける。県内のホタルの名所で、こうした情景がよく見られるようになったのは1980年代以降。ホタルの数が激減し、各地で保護活動が活発化したからだ。ただ、今では多くの保存団体のメンバーが高齢化し、活動を休止した組織もあるそうだ。果たして「初夏の風物詩」は守れるのか。愛媛のホタルの「これまで」と「これから」に迫った。(竹下世成)

「始まりは町おこし」

 

伊予市中山地域の川の上を飛び交うホタル(長時間露光で撮影)

 県内でホタルの保護活動が盛んになったのは80、90年代。ホタルが「豊かな自然」「美しい川」の象徴として扱われ、各地で住民らが保存会を立ち上げた。設立から30年以上の歴史を持つ団体も少なくないという

 86年に発足した伊予市中山地域の「伊予中山ホタル保存会」の峯岡安則会長(72)は「最初は町おこしを頼まれたんよ」と振り返る。地元商店街でカラオケ大会などを開催していた峯岡会長らに、当時の中山町長が提案したそうだ。峯岡会長ら若手14、15人で、ホタルを捕まえに川に行ったがほとんど見当たらない。町内全ての川を見て回ったが、3カ所にしか残っておらず「町おこしよりも『昔の姿を取り戻そう』との思いが強くなった」と語る。

手を伸ばせばホタル 気付けば…

 

昔は捕まえたホタルをタマネギの袋(右)に入れた。今では手作りの入れ物(左)を使う

 大洲市北部にある県指定の天然記念物「矢落川のゲンジボタル発生地」で活動する「柳沢げんじぼたる保存会」も同様の理由で立ち上がった。長年携わる柳沢自治会の徳田登子夫会長(72)は「昔は手を伸ばせばどこでもホタルを捕まえられた。ホタルを餌に夜釣りをし、川の中で光が消えたら魚が食いついたと見極めた」と今ではにわかに想像できないようなエピソードを披露する。夜、ホタルが飛び始めたら農作業を終え、黄緑色の光が照らし出すあぜ道を歩いて帰る。ライトが必要ないほど飛んでいたが、気付けば徐々に減少。古里の原風景を維持するため89年に設立された。

 ホタルが減った理由は定かではないが、峯岡会長は河川の堤防工事を挙げる。川がコンクリートに覆われると、ホタルの幼虫が土に潜れない上に、幼虫の餌となるカワニナも生息しづらいと指摘する。徳田会長は、田畑の農薬などの影響に言及しつつ「生活排水が川に流れなくなり、カワニナの餌が乏しくなったことも原因の一つでは」と推測する。

増やし方は環境整備に養殖

 

2019年に整備し、ホタルの光が戻ってきた水路。至る所にカワニナの姿もあった

 少なくなったホタルをいかに増やすか。各団体は先進地視察や、養殖ノウハウの共有などを通して、対策してきた。柳沢げんじぼたる保存会の中核は環境整備。川沿いの草刈りやごみ拾い、カワニナの餌となる桜の植樹などを続けてきた。いまも会員でカワニナを集め、4月上旬に上流に放流している。養殖に力を入れたのは伊予中山ホタル保存会。峯岡会長の自宅の養殖箱で、幼虫になるまで育てる。養殖を挟むことで、幼虫が流される恐れがある梅雨終わりの雨を回避でき、生存率が数倍に上がるという。

 ホタルの放流や移植には異論もある。全国ホタル研究会は、ホタルの幼虫が食物連鎖の上位であることなどから「ホタル類などの移植は極力行わない」との指針を出した。県自然保護課によると、県内ではホタルなどの保護活動で、地域の生態系が崩れたことが明らかな事例は把握していないそうだが、峯岡会長は「町おこしが活発化した時代には、もともとホタルがいなかった場所に、ホタルを移植しようとする地域もあった」と振り返る。「本来はそこに生息するホタルをどう増やすかではないか」と語気を強める。

課題は激しい雨と高齢化

 

大洲市柳沢連絡所にある水槽。ふ化したホタルの幼虫を育てている

 保存活動が実を結び、90年代以降、各地にホタルが戻り始めた。中山地域は「全域で10万匹以上飛ぶ」屈指の名所となり、飼育箱に入ったホタルを観察する伊予中山ホタルまつりは市内有数のイベントになった。大洲市柳沢地域の柳沢ほたるまつりは、休日となれば市内外から千人を超える人が訪れる。  一方で、両団体とも活動の行く末には悩みもある。「昔と全く違う」と口をそろえる雨の降り方と、会員の高齢化だ。

 「ゲリラ豪雨で一気にホタルやカワニナが流されることが増えた」と語るのは徳田会長。18年の西日本豪雨では矢落川が増水。翌年のほたるまつりではホタルが2、3匹しか飛ばなかった。経験がないほどの減り具合だった。養殖した幼虫約500匹を放流し、20年には少しホタルの光が戻ったが、会員の平均年齢が65歳ほどにまで上がっている。新型コロナウイルスの影響で20、21年とほたるまつりを休んでおり「年も年だし、再開できるかねえ」と弱気も見せた。

地域の若手を巻き込んで

 

土砂降りの雨の中、ホタルの様子を確認して回る延喜ホタル保存会のメンバー。40、50代が中心だ

 世代交代が比較的うまくいっているのが、今治市延喜の片垣池周辺で活動する延喜ホタル保存会だ。80年代から活動しながら会長交代を繰り返し、今でも会員の中心は40、50代と若く、活動に活気がある。藤本一樹会長(47)が活動に参加し始めたのは10年ほど前。延喜地区には獅子舞保存会があり「そこに入ったら、ホタル保存会にも入ったことになっていた」と苦笑する。結果的に、地域として水路の草刈りや、カワニナの放流などの保護活動を継続できており、シーズンになれば1日数百人が池に訪れる。藤本会長は「今あるホタルの環境を維持して、活動を引き継いでいきたい」と語る。

愛媛のホタルのこれから

 

30年以上にわたってホタルの保存活動を続ける伊予中山ホタル保存会の峯岡安則会長

 30年以上、ホタル養殖の最前線を走り、各地の保護活動に助言もしてきた峯岡会長。「はっきり言えば僕らがいなくなってもホタルは飛ぶ」と言い切る。十数年前から、下水道整備も含めた環境保全の結果、自然発生で町中にホタルが飛ぶようになったという。養殖も小学校児童の放流のために行うだけで、活動の中心は盗難防止のパトロール。「将来的に中山町は人ではなく、ホタルだけが残るかもしれない」とまで語る。

 人間のさまざまな活動が、かつてはホタルの数を減らし、今では逆に生息に適した環境を整えてきた。ホタルの生息数がどうなるかや、保存活動の将来像はまだ誰も分からないというのが本当のところだろう。それでも気付けば、今年もホタルは飛んでいる。誰かに指示されるわけでもなく、ゆらゆらと水面(みなも)を照らしながら。

 

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