愛媛出版文化賞 受賞者に聞く
<8>奨励賞/第3部門 文学「手のひらの海」(本阿弥書店) 平山繁美著
2021年1月19日(火)(愛媛新聞)

「短歌はドラマの一場面。今しか詠めない歌を詠みたい」と語る平山繁美さん

「短歌はドラマの一場面。今しか詠めない歌を詠みたい」と語る平山繁美さん
【命の意味 母の心詠む 442首 等身大の世界表現】
短歌を詠む人からは作品について「生っぽい」と言われるという平山繁美さん(50)=今治市唐子台3丁目。第1歌集の「手のひらの海」では、看護師の仕事で感じる命の意味や、子どもの成長に触れた母親としての気持ちなど442首を編み、等身大の目線で世界を表した。第16回日本詩歌句随筆評論大賞の短歌部門優秀賞などに続く受賞に「驚いた」と喜ぶ。
15年ほど前、勤務先にあった女性誌に掲載されていた男女の機微に触れる短歌を読み、31音のドラマチックな世界に引き込まれた。数年後、NHK全国短歌大会で文部科学大臣賞などを受賞、2020年3月からは、本紙文芸面で短歌選者も務める。
発言を誤解されるのが嫌で「人前で話すのは苦手」。でも、短歌は「自分が思っている考えを表現できる。今しか詠めない歌を詠みたい」と語る。
「手のひら―」に掲載した歌は、産婦人科の看護師として勤務した「命の現場」での思いを中心に、これまでの作品からストーリー性を重視して選んだ。発行は新型コロナウイルスの影響を受ける前の19年9月だが、1首目「黙禱の時間増えゆく地球(ほし)に生く手のひらの地図をひたりと合わせ」は、現在の世情を予言したよう。
作歌で影響を受けたのは26歳の息子。幼いときに描いた絵は、平山さんの著書の表紙にも使った。現在は看護師になり、兵庫県の病院で新型コロナ病棟に勤務する。「べたべたはしない。人生を一緒に乗り越えてきた同志」と平山さん。シングルマザーとして成長を見守り、先輩看護師として相談にも乗る。
「歌林の会」会員。短歌を始めて1年程度で大きな新人賞を受賞するような新しい才能や表現に注目し、児童・女性虐待など社会問題にも関心を寄せる。