著者の一人、長野さん(四国中央)に聞く
発達障害の子の心身成長促す「ユニバーサル柔道」指導書
2020年8月18日(火)(愛媛新聞)
柔道のトレーニングを活用し、発達障害のある子どもの能力向上を図るユニバーサル柔道。その普及に取り組むNPO法人「judo3.0」(宮城県)がこのほど、「発達が気になる子が輝く柔道&スポーツの指導法」を発行した。著者の一人で同法人理事・愛媛県柔道協会理事長を務めるユニバーサル柔道アカデミーの長野敏秀代表(47)=四国中央市妻鳥町=に、指導のポイントや心掛けを聞いた。
―柔道が発達障害の子の能力向上に役立つ要素とは。
運動自体が、脳の機能全般の向上に役立つことが最近の研究で分かっている。記憶力、集中力、注意力、情報処理能力といった認知能力がアップするほか、不安やイライラが減り、意欲や自尊心を育むなどさまざまな成果が表れるという。仲間と交流しコミュニケーション能力が高まるという捉え方もできる。
発達障害のある子は、一般に集団行動が苦手とされるが、柔道は一対一の競技。相性のいいメンバーや指導者とペアにすれば、前向きに練習に参加できる。
相手の体勢を崩して技を掛ける競技の特性上、バランス感覚や相手の動きを察知して反応する力を養う。他の競技や日常生活にも使える能力で、心身の発達を促す効果が見込める。素手で組み合うため相手の力量を肌で感じられ、指導者もどんなアプローチをすればいいか分かりやすい。
―どんな練習をするか。
5年前、発達障害の有無を問わず子どもたちが柔道に親しめるよう、地元で「ユニバーサル柔道アカデミー」(ゆにじゅ~)を立ち上げた。鬼ごっこやじゃんけんなどを取り入れ、遊び感覚でトレーニングする。まずは体幹を鍛えることが必要で、赤ちゃんがハイハイするような動きをメニューに取り入れる。背中を左右に振り、股関節や肩関節を大きく動かす。
関節の可動域が広がると、脳が発する信号がスムーズに体の隅々に行き届く。字を書くなど手首や指先を使う細かな動きもよくなる。勉強の成績が上がるともいわれる。
―やる気を出させる方策は。
発達障害のある子は個性的で、その子に応じた指導法がある。
以前、うつぶせになり肘とつま先だけで体を持ち上げる体幹トレーニングをみんなで一斉にしたとき、友達の邪魔をする子がいた。その子の立場でなぜそうするかを考えた。その子はつま先で体を支えられず、邪魔したり指導者から注意されたりすることでトレーニングを回避する時間を稼ごうとしたようだ。スタッフ間で話し合い、時間や回数を減らすなど本人に合うレベルに調整。じゃんけんなどの遊びも絡めると、普通にできるようになった。
ほめ方もこつがある。結果より過程を見る。試合で優勝したことだけほめると、次からは優勝しなければ反省点しか言えない。
例えば「背負い投げに入る前の小内刈りのタイミングが良かった」と言うと、もっと技を磨こうと思ってくれる。礼をする動作、声の大きさ、試合での積極性など子どもを認める視点を多く持つことが大切だ。
―手応え、やりがいは。
自分が選手だったころは厳しい指導を受け、大会で優勝するなど成果を出した。指導者になると子どもを厳しく鍛えた。大会で好成績を上げる子も出たが、道場をやめる子が多かった。競技人口が先細りすると思い、勝つこと以外の意義を求めるようになった。
ゆにじゅ~の活動で引っ込み思案だった子が明るくなり、いろんなことに挑戦したり、思いやりを持てるようになったりする姿を見るとやりがいを感じる。
そもそも柔道は人間形成のためにつくられた。もっと勉強して社会に貢献できる人材を育てたいと思う。
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「発達が気になる子が輝く柔道&スポーツの指導法」(西村健一、長野敏秀、浦井重信、酒井重義著)はA4判、62ページで1100円。