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がん患者 治療と仕事 松山の男性

【web限定】ステージ4 副作用と闘いながら「働く」

2019年11月8日(金)(愛媛新聞)

佐藤尚さん

佐藤尚さん

 がん患者の診断5年後の生存率が65%を超え、がんは「不治の病」でなくなったと言われる。長期療養者が増える一方で、ステージや部位が違えば一人一人状況が異なることに対する理解や、治療と就労の両立などに対する社会的な支援体制構築は道半ば。松山市在住の佐藤尚さん(51)は、副作用に苦しむ厳しい状況の中でも就職活動に苦闘したり、働かねばならなかったりする多くの人がいると訴える。

 

 

 

 

 

【就職活動「いつまで働く気ですか」】

 

 佐藤さんは2016年、他の臓器にも転移が進んだステージ4の大腸がんが見つかった。38歳の時に印刷関係の事業を興してから「死にものぐるい」で働いてきた中での告知。治療しなければ余命は2カ月と言われた。廃業を決め、人工肛門を造設し抗がん剤治療を開始。1年半ほどは、副作用で手足に車の運転ができないほどのしびれや痛みがあったため自宅で療養していた。しかし薬を変えた後に体調が安定、少しでも家計を支えたいと17年秋、長期療養者として就職活動を始めた。

 

 

 

 がん患者など長期療養者の就職支援をしているハローワーク松山の専門窓口を利用するなどして、まずは一般企業への就職を目指したが、がんを告げた途端に採用担当者の表情が変わり、「もし症状が進んだら」と考えているのではないかと何度も感じたという。実際に「いつまで働く気ですか」と聞かれたこともあり、就労の難しさが身にしみた。ハローワークの担当職員と佐藤さんは、時には家族も交えて何度も話し合った。そして18年春、障がいのある人などが雇用契約を結び利用する就労継続支援A型事業所の「き楽庵」(松山市)に就職、できる範囲で働くことを決めた。

 

 

 

 

 

【社会とのつながり実感 人生に豊かさ】

 

 き楽庵では、インターネットオークションに出す前のオートバイのパーツ清掃などに従事。中村泰浩社長によると、1人1人で作業が完結するため、急に休むことがあっても周囲に迷惑がかからないという。佐藤さんの仕事ぶりを「作業の速さや仕上げの良さ、文句の付けようがない」と評価。明るく分け隔て無く接する人柄で、職場によい雰囲気を作ってくれ「張り合いにつながるとおっしゃってくれるのが、こちらもありがたい。長くいてほしい」と話す。

 

 

 

 佐藤さん自身も「副作用のつらさに、死んだ方がましと思ったこともある。でも、同僚の中には同じような悩みを持っている人もいて『実はね』とつらさを共有できる。労働の対価をもらえるということは喜んでくれる人がいるということ。社会とつながっている」と、就労が経済的な側面以外でも、人生に豊かさをもたらしてくれると説明する。

 

 

 

 

 

【所得補償や働ける場所 支援が必要】

 

 就職活動や就労を通じて「ハローワークの職員や事業所のみんなと接し、人とのつながりに感謝し、今やっていることに最善を尽くそうと思えた。もしがん患者で働こうと思う人がいれば、周囲を頼りやってみよう、最終的によかったと思えるから」と伝えたいという。半面、自らの経験から「生活や医療費のため働かねばならない患者は多いだろうが、社会の受け皿はまだ乏しい」と実感する。また「所得補償の制度も少ない。障害年金は支給される患者もいるが、生活に多くの支障が出るほど副作用があっても、私は対象外だった。苦しむ人全てが受給できる制度があれば」と、社会的な支援の必要性を訴える。

 

 

 

※佐藤尚さんは2019年12月8日に亡くなりました。ご冥福をお祈りします。

 

 

 

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