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2019
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乳がん啓発月間

遺伝性、正しく理解を 県内識者に聞く

2019年10月6日(日)(愛媛新聞)

四国がんセンターや愛媛大医学部附属病院では遺伝性の病気に関する相談外来を設けている

四国がんセンターや愛媛大医学部附属病院では遺伝性の病気に関する相談外来を設けている

「遺伝に関する正しい理解が広まってほしい」と語る遺伝カウンセラーの尾崎依里奈さん=10月上旬、東温市志津川

「遺伝に関する正しい理解が広まってほしい」と語る遺伝カウンセラーの尾崎依里奈さん=10月上旬、東温市志津川

「『あなたは独りではない』ということを伝えたい」と語る菅野綾さん=9月中旬

「『あなたは独りではない』ということを伝えたい」と語る菅野綾さん=9月中旬

 女性の12人に1人が罹患(りかん)するとされる乳がんの中で、がんにかかりやすい遺伝的な体質によるものに「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」がある。新薬の登場やゲノム医療の進展に伴い、リスクに応じた治療が可能になる一方、発症や社会的不利益へ懸念を抱える患者、家族の支援が求められている。正しい理解の普及も課題となっており、啓発月間に合わせ、四国がんセンター乳腺外科の大住省三医師らに現状などを聞いた。

 

【「知れば対処法ある」 自己触診や検診 習慣に 罹患リスク7~10倍】

 大住医師によると、国内の年間推計約9万人の乳がん患者のうち、5~10%が「遺伝性乳がん」と考えられる。中でも頻度が高いのが、がん抑制遺伝子BRCA1、2のいずれかに変異があるHBOCだ。

 HBOCが疑われるのは、若年(おおむね40歳未満)で乳がんを発症▽両側の乳がんや、乳がんと卵巣がん両方を発症▽血縁者に複数の罹患者がいる―などの場合で、変異がない人に比べ、乳がんの罹患リスクは7~10倍。2度目の乳がんや卵巣がんを発症する可能性も高く、変異は親から子へ2分の1の確率で受け継がれるため、リスクを踏まえた治療方針や血縁者を含めた予防策の検討も必要になるという。

 昨年7月、再発や転移の乳がんでHBOC患者に使用できる治療薬「オラパリブ(リムパーザ)」が承認された。これを契機に四国がんセンターでも遺伝子検査が増加傾向にあり、判明した患者は、磁気共鳴画像装置(MRI)での乳房の定期検診や卵巣の予防的切除を選択するなどしている。大住医師は「知っておくことで対処法がある体質」と説明する。

 HBOCの可能性がある血縁者の場合、18歳からは毎月の自己触診、25歳から医師による半年ごとの視触診と年1回のMRIなどを勧め、検診により乳がんが見つかる例も出ている。「遺伝の有無にかかわらず、若い時から自分の乳房に触れ、状態を知る習慣を付けておくことが大切」と呼び掛ける。

 愛媛大医学部附属病院では、2015年から乳がん患者全員に家族歴などを聞き取り、遺伝性の疑いがある場合は検査の希望を尋ねる。病気に関する適切な情報を伝え、心理的サポートも行う同病院の遺伝カウンセラー尾崎依里奈さんは「『遺伝性』のイメージに身構える人が多いが、患者さんにも、自分を卑下するようなことではないと理解してほしい」と強調する。

 患者の多くが気に掛けるのは、親族にどこまで伝えるべきか―。尾崎さんは遺伝の仕組みや発症リスク、今後何をするべきかなどについて手作りの資料を用いて説明しており「親族へ伝えにくい場合は代わりに話をしたり、定期検診ができる病院を紹介したりすることもできる」とする。

 遺伝子の情報に基づいた医療の進展に対し、尾崎さんら専門カウンセラーなどの数はまだ不足しており、社会的な取り組みは十分とはいえない。「遺伝は特別なものではなく、誰にとっても関係のあることだと知ってほしい」と理解の普及を求めている。

 

【HBOC当事者会のNPO法人 副理事・四国支部長 菅野綾さん(松山市) 「独りではない」感じて 仲間と交流会 毎月開催】

 HBOCの当事者会「NPO法人クラヴィスアルクス」(東京)の副理事で四国支部長を務める菅野綾さん(50)=松山市。2005年、14年と2度の乳がんを経験し、家族の勧めから受けた遺伝子検査でHBOCが分かった。「遺伝性」という言葉から孤立してしまいがちな当事者に「独りではない」と呼び掛け、社会に正しい理解が広まるよう訴える。

 36歳で右胸、44歳で左胸の乳がんを発症した菅野さんは、年齢の若さと両胸での発症から遺伝性を疑い、主治医に検査を求めた。頭では覚悟していたが、いざ結果を聞くと「その重さは受け止めきれるものではなかった」と振り返る。

 HBOCが判明した患者が感じるのは、自身や家族のリスクへの不安や自分の存在意義の揺らぎ、子どもをもつことへの懸念―などという。菅野さんも当初、遺伝的特性を「他の人とは大きく違っていること」と受け止め、差別や偏見などの社会的不利益を恐れた。

 だが、当事者や専門医らと交流し遺伝について学ぶ中で、それが「勘違いだった」と気付く。「完璧な遺伝子」の人などおらず、誰もがそれぞれの遺伝的特性を持ち存在していると理解し、「私たちすべてが遺伝の当事者で、それは差別されるようなものではないと確信できた。仲間と交流し『独りではない』と感じられたことが自信回復の助けになった」と力を込める。

 遺伝子の変異を「手掛かり」として検診や予防措置を取ることができる。一人一人の遺伝子に応じた治療を目指すゲノム医療も進展する時代。「遺伝を知っておくことはベネフィット(恩恵)しかない。知識を得て『正しく恐れる』ことが大切」と語る。

 課題は、遺伝に関する学びの機会の少なさだ。

 社会の認識が乏しい現状は周囲に相談できない当事者を増やし、孤立を深刻化させる。菅野さんは「検診や治療、予防的手術など選択肢が多くあるのに『経験知』が共有されず生かしきれていない」と懸念する。検診や予防的手術などの費用負担、遺伝的特性に基づく差別を禁止する法の未整備など多くの壁も挙げる。

 支部では、四国がんセンターと愛媛大医学部附属病院で毎月交互に交流会を開く。「当事者がその人らしい人生を送ることが次世代の希望、親世代の安堵(あんど)になる。仲間がいることを知り、自身や家族の健康へとつなげてもらいたい」と呼び掛けている。問い合わせは同会東京本部=電話03(5784)0540。

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