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2019
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Eのさかな 宇和島市出身の作家・片山 恭一さん

[後編]愛媛の魚の美味しさを全国へ

2019年9月23日(月)(その他)

ホウタレの刺身

ホウタレの刺身

 「Eのさかな」は愛媛県の魚を中心に食・自然・観光などの文化を全国に紹介していきます。今回は宇和島市出身の作家・片山 恭一さんに故郷の魅力と魚文化について寄稿いただきました。

 

 ホウタレの刺身は醤油にワサビで食べるのが普通だが、母はときどき酢味噌とあえて「ぬた」にしていた。さっと茹でたネギとよく合った。少し鮮度の落ちたものは煮物などにもしたが、骨がましくて子どもは持て余した。酒も飲まないのに、やっぱり刺身が美味しいと思った。「寒ボウタレ」というくらいだから、シーズンは冬場だったのだろう。季節が移って初夏になるとキビナゴが食卓にのぼるようになる。これも美味しいのは刺身と酢の物だ。酢の物にするときはキュウリと合わせ、薬味にネギやショウガを添えると、いかにも夏を感じさせる涼しげな料理になった。

 

 宇和島地方には他にも懐かしい魚料理が幾つもある。鯛そうめんというのも、やはり郷土料理になるのだろうか。大皿にそうめんを盛り、その上に魚の煮汁をかけ、最後に尾頭付きの鯛を丸ごと載せる。いかにも豪快で見栄えがいい。主に秋まつりなどハレの料理で、小皿にそうめんとほぐした魚の身をとりわけて客人にふるまわれた。父がお酒を飲んだせいか、フカの湯ざらしもわが家の食卓にはよくのぼった。湯通しして水にさらしたフカの切り身を酢味噌でいただく。いまでも宇和島に帰ったときには、ときどき注文する。あと、ぼくが好きなのは丸ずし。酢飯のかわりにおからを使い、酢でしめたサヨリやイワシなどの魚を巻いたもの。他の地方では目にしたことのない、美味しい郷土料理である。

 現在ではじゃこ天という名称がすっかり定着してしまったが、ぼくたちが子どものころは「てんぷら」と言っていた。てんぷらといえば魚のすり身を揚げたもののことで、衣を付けて揚げた正統なてんぷらはなんと呼んでいたのだろう?いずれにしても紛らわしいということで「じゃこ天」になったのだろう。ハランボという小魚をすり身にすると聞いたことがある。揚げたてのものはそのまま、冷えたものは少し火で炙って食べた。大根おろしを添えると、立派な朝ごはんのおかずになった。

 

 四季をとおして豊かな海の幸を贅沢に口にしながら育ったことになる。とりわけ新鮮なホウタレの味など、いまではおぼえている人は少ないかもしれない。室生犀星の詩ではないが、ふるさとは遠くから想うものということだろうか。この「遠さ」には時間的な意味もあって、故郷を離れて四十年以上も経つと懐かしい人たちの多くは亡くなり、街も自然も変貌し、ホウタレの味も幻として追い求められるものになった。悲しくうたっているつもりはないけれど、こんなふうに文章にすると郷愁めいたものがまとわりついてくるのは、そのせいかもしれない。

 

 「Eのさかな」は「さかな文化」を代表とする愛媛の食・暮らし・自然・文化などを取り上げ、分かりやすく情報を発信するフリーペーパーです。

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