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時代を歩く・えひめ現場ルポ

かんきつ被災地の今(宇和島) 若者けん引 復興の力

2019年8月18日(日)(愛媛新聞)

園主の岡田真三司(左奥)が見守る中、土のう積みに励むボランティア=7月24日午後、宇和島市吉田町法花津

園主の岡田真三司(左奥)が見守る中、土のう積みに励むボランティア=7月24日午後、宇和島市吉田町法花津

園主の岡田真三司(左奥)が見守る中、土のう積みに励むボランティア=7月24日午後、宇和島市吉田町法花津

園主の岡田真三司(左奥)が見守る中、土のう積みに励むボランティア=7月24日午後、宇和島市吉田町法花津

【産地団結 未来につなぐ】

 四国地方の梅雨が明け、太陽が顔を出した7月24日。宇和島市吉田町法花津のミカン園地で16人の若者が汗をぬぐい、西日本豪雨で崩壊した斜面に次々と土のうを積み上げた。その数、3時間で600袋。会社の新入社員研修で石川県小松市から訪れた西居直紀(22)は「一人一人の力は小さくてもみんなで団結すれば大きな力になる。できることを全てやって帰りたい」。そう力強く話した。園主の岡田真三司(62)の心も晴れやかだった。「自分一人ではこんなにきれいに積めん。若い人に応援してもらったけん、もう少し頑張らないかん」

 岡田には葛藤があった。「自分の園は今のところ後継者がいない。こんな小さな所の復旧でボランティアに甘えてもいいのか」と。ミカンの価格が4分の1に大暴落した時の記憶が強く残っていた岡田は息子に後を継がせなかった。自分と同じ苦しい思いをさせるのは申し訳なかったからだ。だからこそ「一生懸命(ミカンを)やりよる若い子に失礼」とボランティアらの助けを求めることをためらっていた。

 そんな中、地元の若手農家が昨年12月に立ち上げた営農、販売事業などを手掛ける「玉津柑橘倶楽部(かんきつくらぶ)」がどんな手伝いが必要か聞いてくれた。メンバーの宮本和也(36)は「自分たちが年をとったときにも産地をつなげていくため、『今やらな』と動きだしている」。一緒に土のうを積んだ。

 この日、岡田の園地には西居ら石川県から訪れた8人の他にも、九州、四国など県外からのボランティアが集まった。香川県観音寺市の会社員、宇都勝文(46)は60回以上参加し、宇和島に顔見知りも増えた。

 宇都たちは、継続した復興支援を行うNPO法人「幡ケ谷再生大学復興再生部」(東京)の「愛媛自主練」と銘打ち活動。同NPOは岡山県倉敷市の「真備」、熊本地震や九州北部豪雨被災地の「九州」など各地で地元を中心に息長く支援を行っている。宇和島での活動は昨年8月末から。つてで知り合った農家の支援が一段落した後、4月ごろから柑橘倶楽部と連携し、土のう作り、園地補修などを続ける。

 仕事の合間を縫って週1回以上のペースで宇和島に来ている宇都。「ボランティアというより、勉強させてもらっている感覚」と話し、近い将来発生する恐れがある南海トラフ巨大地震への備えでもあるという。本州四国連絡橋も高速道路も通行できなくなるなどすれば「自分たちで何とかするしかない」。西日本豪雨がこれまで災害ボランティアと無縁だった宇都を動かした。「同じ四国やけん、ここも地元よ」

 

■減災対策

 約6年前、茨城県から移住し、宇和島市吉田町奥浦でかんきつ栽培を営む有我英将(35)は第二の古里の被災を目の当たりにし、動かずにはいられなかった。

 「災害を繰り返さないためにできること」を考え、災害に強い園地づくりを模索。寄付を募って昨年12月、同市吉田町立間の園地で、園主の協力を得て「大地の再生講座」を開催した。講師を招き、斜面に木ぐいと竹を組み合わせた手作りの「抵抗柵」を設置。泥水の流速を弱めつつ、土中への空気と水の浸透を促すという。

 講座には約30人が参加したものの、大多数は興味を持った県外の人。本当に伝えたい地元の人には、届いていないと痛感する。被災園地の早期復旧は大事だが「なんで崩れたか」を考えないことには「減災には向かっていない」と危惧する。

 独立前に2年間研修でお世話になった立間への恩返しの気持ちも大きい。「愛媛ミカン発祥の地」としてミカンづくりにプライドを持ち、結束力の強い地域に少しでも貢献できたら。そして何より「ミカン農家としてなるべく災害を不安に思わなくていい古里を残したい」。柔らかな視線の先には、豪雨の5日前に生まれたまな娘の姿があった。

 豪雨災害の爪痕は1年以上たった今もあちこちに残る。愛媛大の調査によると、宇和島市吉田地域では2200カ所を超える斜面崩壊が発生。周りをミカン山に囲まれた県みかん研究所(同市吉田町法花津)で計10年以上新品種の開発や技術研究に携わる所長の井上久雄(57)も大きな衝撃を受けた。「この規模で斜面崩壊が起こるとは全く想定していなかった」

かんきつ園主の岡田真三司(右)や玉津柑橘倶楽部のメンバーから被災直後の話や復興への歩みを聞くボランティア(左の4人)=7月24日夜、宇和島市吉田町法花津

かんきつ園主の岡田真三司(右)や玉津柑橘倶楽部のメンバーから被災直後の話や復興への歩みを聞くボランティア(左の4人)=7月24日夜、宇和島市吉田町法花津

かんきつ園主の岡田真三司(右)や玉津柑橘倶楽部のメンバーから被災直後の話や復興への歩みを聞くボランティア(左の4人)=7月24日夜、宇和島市吉田町法花津

かんきつ園主の岡田真三司(右)や玉津柑橘倶楽部のメンバーから被災直後の話や復興への歩みを聞くボランティア(左の4人)=7月24日夜、宇和島市吉田町法花津

■課題山積

 研究所では、圃場の1割に当たる約40アールで木の流出やハウス全壊など大きな被害を受けた。今でも更地が広がり、仮復旧用の大きな土のうも目立つ。ミカン農家を支援する立場としても課題は山積する。園地が流れた場所に新たに苗を植えてから収穫できるまでには5年程度必要。この未収益期間をどう短縮できるか、災害後の土壌でうまく木が育つか―心配事は尽きないが、井上は決意している。「農家が心一つにまとまって、特に若い人の必死さが伝わってくる。できることを積極的にやろう」と。とことん地域に寄り添うつもりだ。

 7月24日夜、ボランティア向け宿泊所「たま家」(同市吉田町法花津)の和室。「還暦すぎた人間は正直半分諦める気持ちもある。けど、地元の若い子が復興を後押しして、ボランティアにも来てもらって涙が出るほどうれしい」。農家の岡田は、柑橘倶楽部メンバーと西居らボランティアの若者を前に率直に打ち明けた。彼らの存在は、今の岡田の希望だ。「ええ畑にしとったら、自分が辞める辞めんやなく、若い子が作れる。それが地域のためになったら」

 柑橘倶楽部の社長原田亮司(36)は「若い子がおったけんって言うてもらうけど逆でもある」。親世代ががんがん動き、おじいさん世代が手伝う姿を見て「俺らもやろうと動けた」。

 メンバーの山本平(32)も被災直後を振り返り、言葉をつないだ。「みんな、直後は生活道や民家の復旧にかかりきり。2週間以上たってやっとミカン山の道のために動けた」。休みなく作業を続け、山に行けるめどがついたのはお盆すぎ。「本当は1カ月遅れになった自分とこの消毒をしたいんやけど、奥にしか園地がない人は早う作業せな、一つも園地に行けれんかった」。消毒一つでミカンの品質に大きな影響を及ぼす。それでも、みんなの早期復興を優先した。「地域の人が同じ気持ちでおってくれたけん、前向いて進んだ」。この一体感こそが地域の力だった。

 5日後。「たま家」のすぐそばのJAえひめ南玉津共選場では、約20人の若者が土のう作りに汗を流していた。松山市内はもちろん、遠くは東北から。前日、西条市の野外音楽フェスに出演したバンドマンやいつもの宇都の姿もあった。1日がかりで出来上がった土のうは3200袋。「こんだけ来てもらっとるけん、俺らもやらないかん」。積み重なる土のうを前に、原田の表情がひときわりりしく見えた。(敬称略)

 

 【宇和島市吉田地域のかんきつ産業】 「宇和青果農協八十年のあゆみ」などによると、宇和島市吉田地域では220年以上前に温州ミカンを県内で初めて導入。吉田町立間の加賀山平治郎が「土佐より売りに来た1本の苗木を購入し、庭先の畑に植えたのが始まり」とされている。西日本豪雨では、県内の299ヘクタールの樹園地が崩壊する被害があり、そのうち宇和島市は165ヘクタールに上った。宇和島市復興計画によると、斜面崩壊や土石流により園地を中心に農地814カ所、農道664カ所、モノレール621件の被害が発生し、農業の被害推計額は約210億円。

 

【取材後記】

 「好きだから時間とお金をかけて宇和島に来ている。趣味やスポーツのようなもの」。「愛媛自主練」に合わせて九州から月1回、宇和島市吉田地域を訪れるボランティアの男性の言葉が忘れられない。「夜9時に家を出て、活動して帰り着くのは翌々日の午前1時」と、こともなげに話す表情は生き生きしていた。

 ボランティアのほかにも、園地崩壊の減災・防災を研究する愛媛大の教員、手探りで地元と一緒に復興を進める行政やJAなど多くの力で復興は進んでいる。一方、崩れたままの園地や、作っても作っても土のうが減っていく現状に、まだまだ必要な支援の大きさを感じる。

 7月末の休日、愛媛自主練の土のう作りに参加させてもらった。足腰の筋肉痛以上に充実感が残った。ミカンが大好きな県民の一人として、自分にできることを考え続けたい。

…………………………

 次回は新居浜市で急増し、工都を支えている外国人の現状を伝えます。大半は中国、ベトナム、カンボジアなどから来ている技能実習生。ものづくりの現場で貴重な「労働力」となっている外国の人々の姿に迫り、共生社会について考えます。掲載は9月22日。

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