愛媛出版文化賞 受賞者に聞く
<6>奨励賞/第2部門 美術「オブジェ『思考』―時空の表象―」 矢原繁長・妹尾次郎 星川陽二・伊藤久門編集
2019年1月11日(金)(愛媛新聞)

作品を通じて「自分で考えることの大切さを提示した」と話す矢原繁長さん

作品を通じて「自分で考えることの大切さを提示した」と話す矢原繁長さん
【(オブジェ『思考』制作記録委員会) 根本に「哲学的思索」 制作関係者の熱い思い】
創立100周年を記念して制作された新居浜西高校のオブジェ「思考」の記録をまとめた。A5判、64ページ。一見、大学の論文集を思わせる、きわめてシンプルな装丁の中に、制作関係者の熱い思いが詰まっている。
オブジェの作者はOBで現代美術家の矢原〓長さん(58)=大阪府泉大津市。関西大の法学部を卒業したが現代アートの道へ。彫刻や絵画に加え、近年は詩や評論なども手がけている。2002年には「世界100人の芸術家によるピースアートポスター展」に出品した。
矢原さんに白羽の矢を立てたオブジェ制作プロジェクトのメンバーだが、その内容を聞き「あ然とした」という。場所はツバキ寒桜のある中庭。そこに正方形の鉄板(インド産石に変更)三つを並べるだけだったからだ。しかし続いて、過去と未来を象徴し、時間軸のできる空間を創造する、とのコンセプトの説明に全員が賛同。1年がかりでオブジェは完成した。
装丁が予感させる通り、よくある記録集ではない。9ページの組み写真で制作の様子を紹介。プロジェクトメンバーや同級生らが制作の経過や思いをつづり、美学と英文学の専門家2人の寄稿も掲載する。しかし肝心の制作者である矢原さんはあえて作品について語らず、沖縄を旅した時に感じたアート論や、生まれた詩などを掲載している。
書籍を模した鉛の造形の中に自作詩集を封じ込め、鑑賞者の「読みたい」欲求を引き出した「封印」などコンセプチュアルアートを手がける矢原さん。その根本に据えるのは「哲学的思索」だ。その延長線上に今回のオブジェや記録集もある。「真実は複雑。常にそのことを見つめ、自らの頭で思考してほしい」とのメッセージが込められている。
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