「風の伝言(イアイ)を彫る」から 版画家 名嘉睦稔
<4>「伊豫之国愛比売」 豊穣な土地 女神を想起
2017年5月4日(木)(愛媛新聞)

「伊豫之国愛比売」(2017年)

「伊豫之国愛比売」(2017年)
口に乗ると心地が良いので、ついつい「伊予」と、つぶやいてしまう。「愛媛」も「伊予」も、神話から生まれた名前だったと聞くと、なおさら良く思えて、旅の間妙にくり返すので、そばにいる連れには苦笑いされた。
国生みの神話は、四国を「伊豫之二名嶋」と記述する。一つの身に、四つの顔を持ち、それぞれに名前があると言うのだ。伊予国を「愛比売」、讃岐国を「飯依比古」、粟国を「大宜都比売」、土佐国を「建依別」としたと言い、女神と男神の組になるところから、二名の島としたとのことだ。なんともよろしい。文字の並びとその語感からして、すでに多くの絵を予感させる。
神話の世界は豊かな画想を運んでくるものだ。幾つもの絵が立ち現れるが、結局わたしがとり出せたのは、この一枚だった。名付けて「伊豫之国愛比売」。
地味も肥え、豊穣(ほうじょう)な愛媛の地のあり方は、どうしても地田神として女神を思ってしまう。瀬戸内の温暖な気候が育む実りの玉が、弾けるようにして一面に広がるのだ。そんな画想だが、いただいてみると、今度は海の神が出現する。しかしこれは今後に預けなければならない。
=おわり
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「名嘉睦稔展―風の伝言(イアイ)を彫る」は、松山市堀之内の県美術館で7日まで開かれている。