[解説] 仙波敏郎巡査部長(59)による国家賠償請求訴訟で高松高裁が三十日に出した判決は県警側の「控訴棄却」。県警は二〇〇六年六月の配置転換処分を取り消した県人事委員会裁決から三連敗を喫した。原告にとっては県警本部長の関与などの事実認定で後退した点もあったが、上級審が訴訟の根幹である県警の配置転換を「嫌がらせないし見せしめで違法」と断じた事実は重い。
本をただせば、この訴訟で争われた仙波巡査部長に対する一連の措置は裏金告発に端を発している。一審の松山地裁判決は裏金の存在を「安易に否定できない」と間接的な言い回しで認めた。また会見前の説得行為や配置転換の違法性など「各論」をことごとく認定し、県警が控訴審で逆転するには「裏金」が存在しないと立証することが最短かつ必要条件だったはずだ。
ところがふたを開けてみると県警側は、原告が「望むところ」と論争を待ち受けていた裏金問題には一切触れないまま。控訴審の口頭弁論は三回だけで、うち一回は裁判官交代などに伴う調整。残る二回も配置転換にかかわっていない証人申請とその却下。実質的審理は一度もなかった。「見込みのない手続き」との弁護団の言葉を待つまでもなく、県警の態度は期日の先延ばしにしか映らなかった。
このためか高松高裁は裏金問題について、大洲署で〇四年に発覚した捜査費不正支出に触れるにとどまった。薦田伸夫弁護団長が「証拠上は表面化しない裏金に触れ、県警側の上告の口実にされるのを嫌う裁判官の心理が働いたのではないか」と推測するように、裏金の存否という県民最大の関心事に司法が踏み込まなかった物足りなさが残る。
一、二審とも告発会見四日後の配置転換を「社会通念上著しく妥当性を欠く」と断じた。なぜ県警は違法な報復人事に走ったのか。なぜ控訴審で告発内容の真偽について反論しなかったのか。自ら控訴を求め、説明機会を得たにもかかわらずだ。「これ以上の悪あがき(上告)」(弁護団)への公金支出が県民の理解を得られないのは言うまでもない。
(社会部・向井秀則、菊池敬慈)
【県警捜査費不正支出と国賠訴訟の経緯】
2004年5月 大洲署で捜査費不正支出問題が発覚
05・1・20 県警地域課の仙波敏郎巡査部長が告発会見
24 仙波巡査部長に地域課鉄道警察隊から同課通信指令室への配置転換を内示
27 配置転換発令
2・10 仙波巡査部長が「報復人事」として国家賠償請求訴訟を起こす
23 配置転換取り消しなどを求め県人事委員会に不服申し立て
3・24 警乗手当約1万3000円が未払いとして提訴
8・5 仙波巡査部長支援弁護団らが大洲署の01年度捜査報償費は不正支出として約110万円の返還を求め提訴
06・3 ファイル交換ソフト「ウィニー」による県警の捜査資料流出が発覚。捜査費の不正支出を疑わせる文書も
6・7 県人事委員会が「人事権の乱用」として配置転換取り消しを裁決
7・20 捜査情報流出に絡み、支援弁護団が01、02年度に県警捜査一課が支出した捜査費約17万円の返還を命じるよう求め、知事と県警本部長を提訴
9・26 国賠訴訟で粟野友介元県警本部長が証人出廷、配置転換などへの関与を否定
07・3・29 01年度の大洲署の不正支出返還を求めた住民訴訟で松山地裁が訴えを却下
9・11 国賠訴訟の判決で、松山地裁は告発会見直前の上司の説得行為、配置転換、勤勉手当減額はいずれも違法で、本部長の関与も認定、県に慰謝料百万円の支払いを命じる
9・25 判決を不服として県が控訴
08・6・20 国賠訴訟控訴審が結審
9・30 高松高裁が控訴棄却