県警配転国賠訴訟控訴審判決理由(概要)
2008年9月30日 高松高裁
【判決主文】
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
【高松高裁の判断】
以下の事実が認められる。
[1]経緯
(1)記者会見に関する風評
仙波敏郎巡査部長は、平成17年1月7日にオンブズえひめと捜査費等不正支出問題に関する記者会見の打ち合わせ等をした後に、高校の同窓会に出席し、その場でも上記記者会見のことなどを話し、たまたまその会に出席していた県議会議員とも会話した。
仙波巡査部長の同窓会における言動等の情報は、上記県議会議員から、捜査二課の課長補佐を経由して、総務室長のところまで伝達され、室長は、地域課長に対し、仙波巡査部長が捜査費等不正支出問題に絡んで記者会見をするのではないかとの風評が入っているから、確認してほしい旨依頼した。
(2)平成17年1月13日の面談
地域課長は、仙波巡査部長を誘って、午後5時30分ころから午後6時30分ころまで、喫茶店で夕食をとった。地域課長は、その席で、仙波巡査部長に対し、総務室長からの依頼内容を伝えた上、記者会見を行うのかその真否を聞いた。仙波巡査部長は、まだ迷っている旨返答するとともに、地域課長に対し、記者会見を行ったら異動になるかなどと聞いた。地域課長は、在職期間からみて異動の対象だが残留を希望するということで要望しておく旨答えた。
地域課長は、総務室長に、仙波巡査部長は記者会見をやるかやらないかは決めていないようだなどと伝えた。総務室長は、粟野本部長に、仙波巡査部長が記者会見をするかもしれないという風評があったけれども、どうもしないようだなどと報告した。
(3)平成17年1月中旬ころの鉄道警察隊長と仙波巡査部長の会話
平成17年1月中旬ころ、仙波巡査部長は、鉄道警察隊の事務所で上司である鉄道警察隊長と雑談中、仙波巡査部長が捜査費等不正支出問題のことで内部告発の記者会見をするような話をした。その際、仙波巡査部長は、記者会見は、オンブズえひめに頼まれてやるようになったことや、高校の同窓会の席で話したところ県議会議員からやめた方がいいと説得されたことなどを話したが、記者会見の内容などの具体的な説明はしなかった。鉄道警察隊長は、上司の立場から、仙波巡査部長については、一度決めたことは絶対に譲らない性格で、扱いづらいタイプの部下であるものの、よく雑談をし、本音を打ち明けることもあり、そこそこの信頼関係を保てていると感じていたが、仙波巡査部長が自分にそのような話をした真意を図りかね、憶測で内部告発の記者会見をしようとしているのではないかと心配にもなり、仙波巡査部長の決心の度合いを確認するため、「わしが何か言うても、やめんのやろ」と質問すると、仙波巡査部長は即座にやめる気はない旨返答した。鉄道警察隊長は、仙波巡査部長が日頃地域課長の世話になっている旨の話を聞いていたことから、仙波巡査部長に対し、地域課長にその話をしたのか質問してみたところ、仙波巡査部長は、話をするつもりでいる旨返答した。
(4)平成17年1月19日の状況
ア、面談まで
午前10時半、弁護士が、県警記者クラブに電話をし、愛媛弁護士会館においてオンブズえひめが県警の捜査費等不正支出問題で明日午後1時30分から記者会見を行う趣旨の予告の連絡をした。なお、仙波巡査部長は、上記弁護士が上記予告の連絡をしたことを知らなかった。仙波巡査部長は、午後5時ころ、帰り際に鉄道警察隊長に「今夜、弁護士と会う」などといった話をした。
仙波巡査部長は、午後5時すぎころ、県警本部に地域課長を訪れ、記者会見をするかどうかについてはまだ決めていないが今からその件の打ち合わせのため弁護士事務所へ行く旨、終わったら連絡する旨告げた。
仙波巡査部長の同期である地域課調査官は、同じころ、仙波巡査部長と県警本部の廊下で会った際、仙波巡査部長から世話になったというような、今生の別れのようにもとれる言葉をかけられたことから、不審に思った。
仙波巡査部長は、午後5時40分頃、地域課調査官に電話をし、記者会見のことを告げ、「世話になった。お前には言ってなかったので、言っておく。本心は決めかねている」などと話した。
地域課調査官は、上記のやりとりを仙波巡査部長の上司である地域課長に伝え、地域課長は、地域課調査官に対して仙波巡査部長の記者会見の風評等に端を発したこれまでの経緯を説明し、今夜仙波巡査部長と面談する旨告げ、同席を求め、地域課調査官は了承した。
地域課長は、仙波巡査部長が訪れたことなどを報告するため本部長室に赴いた。本部長室では、粟野本部長が警務部長、警務課長とともに4月以降の人事構想を練っていた。地域課長は、粟野本部長に対し、仙波巡査部長が弁護士事務所へ向かったことや上記仙波巡査部長と地域課調査官とのやりとりなどを報告し、仙波巡査部長の弁護士との打ち合わせが終わった後に面談して、仙波巡査部長からその真意を聞くつもりである旨告げた。その場にいた仙波巡査部長の同期である警務課長は、地域課長に対し、仙波巡査部長との面談に同席したい旨申し出た。地域課長はこれを了承した。
地域課長は、仙波巡査部長の弁護士との打ち合わせはすぐに済むものと思っていたところ、しばらくしても連絡がないので、午後6時ころと午後6時30分ころに、仙波巡査部長の携帯電話に電話した。そのとき仙波巡査部長はオンブズえひめとの間で記者会見についての打ち合わせ中であった。
仙波巡査部長は、午後7時40分ころまで、オンブズえひめと翌20日の記者会見についての打ち合わせを行い、その終了後、弁護士に電話でこれから県警本部に行く旨告げたところ、同弁護士から行かない方がいいのではないかなどと忠告された。しかし、午後9時ころに県警本部に戻り、地域課において、地域課長、警務課長、地域課調査官と面談した。
地域課長は、仙波巡査部長とは昭和42年に警察大学校で仙波巡査部長が他の入校生と争いごとを起こした際にたしなめたことをきっかけに知り合い、その後も関わり合いを持ち、仙波巡査部長について、上司の立場で話をしても絶対聞くことはなく、自分の利になることにはスムーズに動くが、それ以外のことは聞かない性格であり、日立ちたがり屋で、話には誇張癖があり、感情を激しく言動に表すタイプであるなどの認識の下に付き合いを続け、長年の間にそれなりの信頼関係を構築してきたとの思いがあり、仙波巡査部長の方でも、地域課長が妻の葬儀に警察幹部として勤務中ただ一人参加してくれたことなどに恩義を感じ、それなりに頼りにするなどしてきた関係にあった。
地域課調査官も、仙波巡査部長の同期として長年の付き合いがあったが、仙波巡査部長について、感情を激しく言動に表すタイプと感じており、以前上司と衝突し激昂した仙波巡査部長から、強く異動を依頼されるなどした経験があった。
警務課長は、仙波巡査部長の同期生としての付き合いがあり、仙波巡査部長の妻の葬儀に参列したこともあり、仙波巡査部長については、自分の感情を表に激しく出し、直情径行型の一面を有すると感じており、昔仙波巡査部長が高知県警の同期生との問にトラプルを起こし、その件について警務課長が同期生から不満を聞かされて辛い思いをした経験があった。
イ、面談の内容
仙波巡査部長は、地域課長から記者会見をするかしないかについて質問されたのに対しては、具体的には決めていない旨、するなら連絡する旨の対応に終始し、また、記者会見ではどのような発言をするのかの質問に対しては、「資料は持っているが、明日は出さない。裁判にでもなれば出す」などと言うのみで、説明しようとしなかった。
そこで、地域課長は、仙波巡査部長がこれまで交番や駐在所等の地域警察部門でしか仕事をしたことがなく、昨今問題になっている捜査費を扱う部署に勤務したことはないことに加えて、仙波巡査部長には誇張癖や目立ちたがりの癖があるとの認識もあって、仙波巡査部長が憶測や他人から聞いた話等を記者会見で話すものと推測し、現職警察官である仙波巡査部長がそのようなことをすれば県警がいらぬ誤解を受け、現場が無用の苦労をさせられるとの思いもあり、「君が記者会見すれば、県警は1年間は立ち直れない」などと話した。
そのうち、仙波巡査部長が地域課調査官に対して「お前はどう思うんぞ」などと意見を求めたことから、地域課調査官は、仙波巡査部長が記者会見をして辞めるのではないかと思っていたので、「警察に一緒に奉職した以上、一緒に卒業したい。わしも10年間地域の現場で頑張ってきた。いろいろ努力もした。その結果、警視試験にも通った。現場は苦労しながらも一生懸命頑張っている。今お前が動けば、現場は更に苦労する」などと返答した。
一方、警務課長は、仙波巡査部長が、記者会見で他人から聞いた話だとか根拠のない憶測とかを話すのではないかと懸念していたことから、大洲署の捜査費等不正支出問題が明るみに出て以来、現場では本来必要な捜査費についても遠慮して、自腹を切るような状況もあるなどの実情を話し、仙波巡査部長が記者会見で他人から聞いた話や憶測を話すと、現場はますます混乱するから、その辺りをわかってもらえないかなどという話をするなどした。
以上のような地域課長らの発言に対し、仙波巡査部長は、「今、きちんとしないと、県警は一生立ち直れない」などと反論し、また、この際県警は膿を出し切らなければ、現場の捜査員は報われないし、過去にいい目をしている幹部はきちんと清算してもらいたいなどと訴えるなどしていた。
地域課長らは、仙波巡査部長が感情的に激しやすいとの認識から、極力落ち着いた雰囲気の中で仙波巡査部長に話をさせるよう配慮していたが、途中から、まくし立てるように話し始め、地域課長に対しては妻の葬儀に参列してくれたことに思義を感じているとか、今回妻の墓参りを済ませ息子らとも別れを告げてきたので思い残すことは何もないとか、興奮し思い詰めた様子で涙声になるなどして話し続けた。地域課長ら3人は、仙波巡査部長の様子が平常心を失っているように見えて、不安を感じた。
面談は、午後11時前ころまで続いた。この間、数回にわたり仙波巡査部長の携帯電話が鳴るなどし、仙波巡査部長は通話のため席を外すなどした。結局、仙波巡査部長は、今晩一晩考えると言って、記者会見を行うか否かについて確定的な返答をすることなく、記者会見で話す内容も明らかにすることなく、地域課を後にした。面談の終了前、地域課長は、仙波巡査部長に対し、記者会見をやるのであれば、粟野本部長に報告する必要があるから、決まれば事前に連絡して欲しい旨頼んだ。
ウ、面談後
その夜、仙波巡査部長は自宅には帰らず、ホテルに宿泊した。
地域課長は、午後11時ころ、粟野本部長に対して電話をし、面談の状況について仙波巡査部長がする記者会見の内容は具体的にはよく分からないが、会計、経理に対するもののようである旨、仙波巡査部長が記者会見することについてはまだ迷っている旨、精神的に非常に不安定になっている旨を報告するとともに、明日仙波巡査部長が記者会見するのであれば連絡してもらうことになっている旨伝えた。また、生活安全部長にも同様の報告を行った。
(5)平成17年1月20日の本件記者会見までの状況
地域課調査官は、早朝起床し、前夜の面談時の仙波巡査部長の精神的に不安定な興奮状態を思い、心配になり、午前6時ころ、地域課長に対し、仙波巡査部長宅に様子を見に行く旨の電話をした。地域課調査官は一人で行くつもりではあったが、地域課長も同行することになった。
地域課長と地域課調査官は、早朝仙波巡査部長宅に向かい、仙波巡査部長宅に電話し、電話に出た仙波巡査部長の親族(亡妻の実妹)から巡査部長が不在である旨告げられたが、まもなく仙波巡査部長宅を訪れて上記親族に巡査部長の所在を尋ねた。その後、地域課長らは、仙波巡査部長の所在を突き止めるべく、立ち寄りそうな所へ連絡をとるなどした。なお地域課調査官は、仙波巡査部長宅から引き上げる途中、巡査部長の精神状態からして万が一のことを考えて、仙波巡査部長の拳銃は保管した方がいいのではないかと意見具申した。
地域課長は、仙波巡査部長から記者会見をするのであれば連絡してもらうことになっていたとの認識もあって、この点からも仙波巡査部長と連絡を取る必要があったことから、仙波巡査部長の携帯電話に架電するなどしていたが、午後零時前には「1回連絡をください。なお、意志固まっていると思いますが、再度、あのー、私からお願いとして、最後のお願いとして、行くのは約束しているから駄目だと思いますが、えー、会見を・・・」という伝言を残し、その後午後零時40分ころまでの間に、 2度にわたって仙波巡査部長の携帯電話に、記者会見を行うか否かを連絡するように依頼する旨の伝言を残した。
粟野本部長は、 日刊紙朝刊に、県警の捜査費等不正支出問題で現職警察官が長年にわたり県内の各警察署で捜査費を不正支出していたと証言した旨の記事が掲載されていたことや、仙波巡査部長が上記捜査費等不正支出問題に関して記者会見を行う可能性があるとの報告を受けていたことから、午前11時15分ころ、加戸知事と面会し、上記記者会見が行われる可能性があること、その内容を見て調査した上県民に対する説明責任を果たしたいといった趣旨の説明をした。
仙波巡査部長は、午後1時前ころ、地域課長に電話を架け、「今から記者会見やります。申し訳ありません」などと告げた。地域課長は「あんまりむちゃするなよ」などと言って電話を切った。
(6)平成17年1月20日の本件記者会見及び本件拳銃保管
仙波巡査部長は、前提事実(3)のとおり、午後1時30分から、本件記者会見を行った。
地域課長は、地域課調査官の進言もあり、仙波巡査部長の昨夜の言動や精神的に不安定な様子に加えて、平成17年1月20日の仙波巡査部長の本件記者会見の内容やその際に涙を流し「辞めるときは死ぬとき」などの発言を行った事実等を伝え聞き、前提事実(4)のとおり、拳銃の管理責任者として本件拳銃保管を行い、同日午後5時すぎ、仙波巡査部長に対し、仙波巡査部長の拳銃を保管する旨電話で伝えた。
仙波巡査部長は、拳銃保管をされると仕事に差し支える旨答えたが、地域課長は、本件記者会見の中で仙波巡査部長が行った「辞めるときは死ぬとき」という発言は自殺をほのめかすもので、これを防止する必要がある旨本件拳銃保管の理由を説明した。仙波巡査部長は、前記発言は自殺をする趣旨ではない旨反論したが、地域課長は「既に預かっている」としてこれを聞き入れなかった。
(7)平成17年1月21日
仙波巡査部長は年次休暇をとった。地域課長は、生活安全部長に対し、本件拳銃保管について報告した。
(8)平成17年1月22日及び同月23日の聞き取り調査
仙波巡査部長は、本件記者会見後、平成17年1月22日午前9時ころから午後2時ころまでと同月23日午前9時30分ころから午後1時ころまでの2回、県警の会計調査班から聞き取り調査を受けた。その間、仙波巡査部長の鉄道警察隊での通常の現場勤務は他の隊員が代行していた。上記聞き取り終了後の仙波巡査部長の勤務については、地域課長は、仙波巡査部長に対し、通常の現場勤務ではなく事務所における事務処理を命じた。
上記聞き取り調査の結果を踏まえて、平成17年1月23日午後2時から、粟野本部長、警務部長、総務室長、会計課長、会計課の事務局の者が出席する「検討会」が実施された。地域課長も出席を希望したが、会計課長から、仙波巡査部長の聞き取り調査を踏まえての今後の方針を検討するだけの検討会であるなどと言われて、出席を断られた。
(9)平成17年1月24日の生活安全部長による内示
地域課長は、左頸部リンパ節腫大による発熱及び嗄声により通院し、年次休暇を取得した。
生活安全部長は、午前9時20分ころ、仙波巡査部長に対し、生活安全部長室において、地域課長が病気で休暇を取得したため地域課長の権限を代わりに行使して、仙波巡査部長を地域課鉄道警察隊から地域課通信指令室へ異動させる旨告げた。仙波巡査部長は、生活安全部長に対し、「報復人事ですか」などと配置換えの理由を質問した。生活安全部長は、仙波巡査部長に対し、仙波巡査部長の職務経歴を考えた上での課内配置換えであることを説明し、午前中は地域課鉄道警察隊で勤務し、午後からは地域課通信指令室へ移ることを告げたが、納得のいかない仙波巡査部長からなおも説明を求められたところ、部外から電話が入ったため、仙波巡査部長に対し地域課で待機するよう指示した。その後、生活安全部長は、警務部長室に行った。生活安全部長は、昼ころ、仙波巡査部長に対し、生活安全部長室において、次長立ち会いの下、再度通信指令室への課内配置換え通知を行い、正式な発令日等については、地域課長が出勤後に指示する旨を伝え、書類整理など課内配置換えの準備を始めるよう指示した。
これを受けて、仙波巡査部長は、午後、異動の内示を受けたこと及びそれが報復人事である旨の記者会見を行った。
なお、県警本部における係長以下の警察官に係る人事異動については、愛媛県警察の職員の任用に関する訓令4条2項に所属長が職員の職務を指定する旨の規定等があることを根拠に本部長の権限が所属長に分配されているとして所属内の配置先の発令は例外なく所属長が行っている旨の実態ないし慣行があり、地域課長もかつて心臓に問題があり夜間勤務をさせることが困難な通信指令室員と地域課鉄道警察隊員とを相互に定期異動以外の所属長発令で所属内異動をさせたことがある。
(10)平成17年1月26日の一部改正の訓令
地域課長は、平成17年1月25日も左頸部リンパ節の腫れが引かないため引き続き年次休暇を取って通院したが、同月26日には出勤し、警務課に対し、通信指令室企画係の新設を要望し、その結果、その旨の「愛媛県警察本部各課、警察学校及び警察署の係設置に関する訓令及び通信指令室組織及び運営規定の一部を改正する訓令」が、警務課長の専決処分で定められ、同月27日施行された。
(11)平成17年1月27日の本件配置換え
地域課長は、同訓令の制定により仙波巡査部長の異動に必要な訓令の改正がなされた後、その施行に合わせて仙波巡査部長を通信指令室企画係に配置換えする辞令の決裁を行い、前提事実(5)のとおり、本件配置換えを行った。
その際、地域課長は、仙波巡査部長に対し、仙波巡査部長の今までの言動等を勘案し、本人及び第三者に対する危害予防のため拳銃保管を行っているので、地域課鉄道警察隊での制服勤務はできないこと、仙波巡査部長は県内の地理に精通しており、豊富な実務経験から、通信指令室業務は十分にこなし得ること、通信指令室においては、警察署の統合に伴う無線機の再配分を行わなければならないが、3交替制勤務員のみが勤務する現在の体制では困難であるため、仙波巡査部長には日勤勤務で無線機の再配分、緊急配備計画の再構築等を担当させる予定であることなど、配置換えの理由を告げた。
(12)仙波巡査部長の通信指令室企画係での勤務
仙波巡査部長は、現実には、2月1日から、通信指令室企画係での勤務を開始した。
通信企画室には、仙波巡査部長の執務机が急きょ運び込まれた。
仙波巡査部長が担当すべき事務は、平成17年4月1日現在は(ア)非常(異常)通報装置の運用管理(イ)携帯無線機の管理・運用(ウ)統計事務、通信指令業務の統計に関すること、緊急配備の統計に関すること(エ)備品・消耗品の管理及び無線機乾電池の配分に関すること。平成18年4月1日現在は(ア)非常(異常)適報装置の運用管理(イ)携帯無線機の管理・運用(ウ)指令室の庶務・企画・調整に関すること(エ)統計事務(オ)備品・消耗品の管理に関すること。
仙波巡査部長のみが所属する企画係の長であり仙波巡査部長の上司となる企画課長補佐は通信指令官が併任している。
仙波巡査部長は、平成17年6月24日、非常(異常)通報装置の運用管理の業務担当連絡会議について、自らが正責任者であると考え、出席しようとしたが、拒否された。
(13)勤勉手当の減額
前提事実(6)のとおり、仙波巡査部長に対する、平成17年6月と12月の勤勉手当の評価はC下であった。仙波巡査部長はそれまではCの評価を得ていた。
仙波巡査部長は、平成17年12月、勤勉手当の評価「C下」に納得できないとして、所属長等に対し説明を求めたが、説明がなかったため、同月9日粟野本部長宛にその説明を求める趣旨の質問状を提出したが、何ら回答はなかった。
(14)人事委員会裁決
前提事実(7)のとおり、仙波巡査部長が、愛媛県人事委員会に対し、平成17年2月23日、本件拳銃保管及び本件配置換えについて不服申立てをしたところ、上記人事委員会は、平成18年6月6日に本件配置換えを取り消す旨の裁決をした。
県警本部長及び地域課長は、上記人事委員会に対し、平成18年12月7日付で上記裁決は事実認定に当たって判断の遺漏が認められることを主張して再審の請求を申し立てたが、上記人事委員会は、再審の事由に該当しないなどとして却下した。
上記人事委員会裁決を受けて、仙波巡査部長は、平成18年6月7日に、地域課鉄道警察隊に復帰した。
[2]争点1 記者会見妨害行為の存否及び違法か否かについて
仙波巡査部長側は、粟野本部長ら県警幹部らが地域課長らに指示して、平成17年1月13日及び同月19日に仙波巡査部長人と面談させ、説得させ、同月20日早朝に仙波巡査部長宅を訪問させるなどして、記者会見を妨害し、中止させようとした違法行為がある旨主張する。
(1)平成17年1月13日の面談
まず、平成17年1月13日の面談の経緯状況は、経緯で示した通り、地域課長は総務室長から、仙波巡査部長が捜査費等不正支出問題に絡んで記者会見をするのではないかとの風評が入っているから、確認してほしい旨の依頼に基づき、仙波巡査部長を夕食に誘い、記者会見を行うのかその真否を聞き、仙波巡査部長が、まだ迷っている旨返答するとともに、地域課長に対し、記者会見を行ったら異動になるかなどと聞き、地域課長が、在職期間からみて異動の対象だが残留を希望するということで要望しておく旨答えたものであるが、当日の状況については、原審における仙波巡査部長本人中に、記者会見を止めてくれというニュアンスはなかったように記憶している旨の供述部分があるところ、記者会見をするのかどうかを確認すること自体をもって直ちに違法とする根拠も見当たらないほか、仙波巡査部長が、地域課長に対して記者会見を行ったら異動になるかなどと聞いたのに対し、地域課長が、在職期間からみて異動の対象だが残留を希望するということで要望しておく旨答えた点については、それ自体異動に関する仮定の質問に対して自分の見解を述べた域を出ないというべく、これをもって直ちに違法ともいえない。他に面談の方法や成り行きを検討しても格別違法事由を認めることはできない。
(2)平成17年1月19日の面談
次に、平成17年1月19日の面談についてであるが、仙波巡査部長は、前記主張において、同日の面談の際、地域課長ら県警幹部等から「明日の記者会見はやめてくれ。その代わり、警部補昇任も考えている。残り4年間、楽なセクションで送ったらどうか」「(春の定期異動の)ヒアリングでもお前を鉄道警察隊に残すことにしたんだから、記者会見をやめてくれ」と言った旨主張し、原審における仙波巡査部長本人及び仙波巡査部長の陳述書等にはこれに沿う部分があるが、原審証人地域課長、地域課調査官、警務課長の反対趣旨の証言に照らし、直ちに採用し難い。
かえって、平成17年1月19日の面談の状況は前記認定のとおりである。すなわち、仙波巡査部長自身が同月7日の同窓会で記者会見の話を披瀝し、その風評が県警に達したことが契機となり、地域課長が同月13日にその真否の確認のため仙波巡査部長と面談し、仙波巡査部長がするかしないか迷っている旨の返答をしたままになっていた(この問、記者会見の風評に関して県警の側から仙波巡査部長に対する働き掛けが行われた形跡は証拠上全く見当たらない)ところ、仙波巡査部長が同月19日夕刻になって地域課長を訪問し、記者会見をするかどうかについてはまだ決めていないが、今からその話のため弁護士事務所へ行く旨、終わったら連絡する旨告げたことが同日の面談の発端となった。同じころ、仙波巡査部長は同期の地域課調査官に対し、自ら声をかけ、電話するなどして記者会見に関して決めかねている旨を告げ、地域課調査官もこの件を知ることとなり、さらに、同じころ、地域課長が粟野本部長にこの件の報告のため本部長室を訪れた際、同室にいた仙波巡査部長の同期の警務課長もこの件を知ることとなった経緯がある。仙波巡査部長と面談した地域課長、地域課調査官、及び警務課長は、いずれも仙波巡査部長が捜査費を扱う部署に着いた経歴がなく、記者会見で捜査費等不正支出問題について的確な話ができるのか疑問を持っており、できれば他人から聞いた話や憶測程度で記者会見はしてほしくないとの考えを持つ一方で、仙波巡査部長の性格や過去の経歴等を知悉しており、上司からの押し付けなどには決して屈しないし、感情的に激しやすい面もあることを承知の上で、できるだけ穏やかな雰囲気の中で仙波巡査部長が話せるよう配慮し、仙波巡査部長から記者会見を本当にするのかどうか、記者会見ではどのような話をするのか聞き出そうとしたものであるが、結局、仙波巡査部長はこれらについて返答をすることはなかったものである(原審における仙波巡査部長本人中にも、上記面談の際に記者会見をするかしないかということまでは話をしていないということかとの質問に対しては「まあ、私ぐらいの感覚であれば、あっ、こいつするなというのはわかりますが、彼ら3人には、するともしないとも言わなかったですから、ひょっとしたらするのかな、ひょっとしたらやめるのかなということぐらいしか思わなかったと思います」との供述部分がある)。
以上のように、平成17年1月19日まで県警側に動きのないこと、同日の仙波巡査部長の地域課長訪問を契機とした面談の実現、仙波巡査部長の同期の地域課調査官及び警務課長が面談に参加することになった経緯、地域課長らが仙波巡査部長の過去の経歴に照らして抱いていた捜査費等不正支出問題に対する的確な証言をなし得るかどうかについての疑問、仙波巡査部長の性格等に対する認識、地域課長らの質問にもかかわらず面談の最後まで仙波巡査部長が記者会見するかどうか明らかにしなかった事情等に照らすと、県警側が事前に仙波巡査部長の記者会見を阻止するための利益誘導等の準備をしていた形跡はうかがわれない上に、面談の際の会話の焦点も、記者会見をするのかどうか、するのであればどのような内容なのか、それは捜査費等不正支出問題に対して的確な証言たり得るのかどうかに向き、 これらの点について仙波巡査部長に説明を求めることになるのが自然であり、これらの点が明らかにならないのに、仙波巡査部長のいうような利益誘導が話題の中心になるとも考え難い。もっとも、双方のやり取りの成り行き上、仙波巡査部長が記者会見を行った場合を仮定した話題が出ることはあり得るであろうし、現に前記認定のとおり、地域課長が、仙波巡査部長が現職で告発会見をやれば、県警は1年間は立ち直れないなどと話し、仙波巡査部長から意見を求められて、地域課調査官が、仙波巡査部長が記者会見をして辞めるのではないかと思っていたので、「警察に一緒に奉職した以上、一緒に卒業したい。わしも10年間地域の現場で頑張ってきた。いろいろ努力もした。その結果、警視試験にも通った。現場は苦労しながらも一生懸命頑張っている。今お前が動けば、現場は更に苦労する」などと言い、警務課長が、仙波巡査部長が記者会見で他人から聞いた話や憶測を話すと、現場はますます混乱するから、その辺りをわかってもらえないかなどという話をしているが、これらの発言は、仙波巡査部長が捜査費を扱う部署にいた経験がないことから記者会見で憶測等を話すのではないかという懸念を前提としたものであり、捜査費等不正支出問題に対する仙波巡査部長とは異なる認識を前提にした意見の表明ないし仙波巡査部長に対する要望あるいは再考を促すといった趣旨のものと解されるから、これらをもって利益誘導とはいえないし、このような発言をしたこと自体をもって直ちに違法ともなし難い。なお、上記地域課長らの懸念に対し、これを解消ないし減弱するに足りるような説明ないし反論が仙波巡査部長からなされた形跡は見当たらない。
以上の次第で、平成17年1月19日の面談において、仙波巡査部長が主張するような利益誘導が行われたとは認められず、それに類する違法事由があったことを認めるに足りる的確な証拠もない。
ところで、面談時、地域課長ら3人ができれば仙波巡査部長に記者会見をしてほしくないとの思いでいたことは前記認定のとおりであるが、このような思いを有していたのは、仙波巡査部長が捜査費を扱う部署に着いた経歴がなく、記者会見で捜査費等不正支出問題について的確な話ができるのか疑間を持っていたためであることも同認定のとおりであり、この点は仙波巡査部長の認識と相違があったにしろ、上記3人がそのような思いを有していたからといって、直ちに面談をすること自体が違法になるものとはいえない。面談そのものも、仙波巡査部長から当日弁護士と会う旨告げに来た仙波巡査部長に対し、地域課長が了解を取った上で実施され、時間が遅くなったのも、仙波巡査部長の弁護士との打ち合わせが終わるのを待ってなされた経緯によるものであり、仙波巡査部長は弁護士から行かない方がいいのではないかとの忠告を受けたが、自ら県警本部を訪れ、面談に応じたものであり、地域課調査官及び警務課長が参加することについても、格別異議を述べたこともなく、面談の時間も2時間弱程度であり、その問、面談の中止や自らの退席を求めることもなく、数度の携帯電話による退席をした以外は退席することもなく、地域課長らからの記者会見をするのかどうか、その内容はどのようなものかとの質問に対しては結局答えないで、県警の捜査費等不正支出問題に対する姿勢を強く批判し、自らの思いを述べ、最後に記者会見をするかどうか決めたら連絡してほしい旨の依頼に対しても格別拒絶することなく県警を後にしたものであり、その間、仙波巡査部長が地域課長らの言動に対して不快感を示したり、面談自体を拒否しあるいは退席を求めたりなどした形跡はなく、話し合い自体が紛糾した形跡もない。このように、面談の端緒、時間、進行状況等を検討しても、県警側が無理強いし、仙波巡査部長の意向を無視し、威圧を加え、その感情を害するなどした事情は全く見当たらないところであり、特段違法事由があったとは認められない。
(3)平成17年1月20日の仙波巡査部長宅への訪問等
さらに、平成17年1月20日早朝に地域課長らが仙波巡査部長宅を訪れたことなどについても、仙波巡査部長は、記者会見を妨害し、中止させようとするための違法行為である旨主張するが、同日の記者会見までの地域課長らの行動は、前記認定のとおりであり、仙波巡査部長の同期である地域課調査官が、前夜の面談時の精神的に不安定に見えた状況から、仙波巡査部長のことが心配になり、早朝、地域課長に対し、仙波巡査部長宅に様子を見に行く旨の電話をし、地域課長もこれに同行することになり、 2人で仙波巡査部長宅を訪れたものの、仙波巡査部長の不在を知り、心配して立ち寄りそうなところ等に連絡するなどして所在確認に努めたものであり、他方、地域課長は、仙波巡査部長が記者会見をすると決めれば連絡してもらうことになっていたことから、連絡してほしい旨、仙波巡査部長の携帯電話に伝言を残すなどしたものであって、これらの行動には、仙波巡査部長の外泊という予想外の事態や記者会見をするしないに係る連絡がないことによる困惑狼狽の様子はうかがえても、記者会見阻上のための違法行為であることをうかがわせるような形跡は見当たらない。他に、同日の地域課長らの仙波巡査部長宅の訪問等の行為が記者会見を妨害し、中止させようとするための違法行為であることを首肯させるような事実を認めるに足りる証拠はない。
(4)補足
仙波巡査部長は、粟野本部長ら県警幹部らが地域課長らに指示して仙波巡査部長の記者会見を妨害し、中止させようとした違法行為があるとも主張するが、前記認定のとおり、地域課長が粟野本部長や総務室長に面談の状況や結果等を報告していたことはあっても、粟野本部長ら県警幹部らが地域課長らに指示して仙波巡査部長の記者会見を妨害し、中止させようとしたことを認めるに足りる証拠はない。
原審における仙波巡査部長本人中には、平成17年1月19日の面談の前に、地域課長からかかってきた電話で「粟野本部長から仙波巡査部長を本部に引き戻すように言われたので、すぐ帰ってくるように」などと言われた旨の供述部分があるが、原審証人地域課長はそのような会話をしたことを否定しており、上記供述部分は直ちには採用し難い。また、弁護士の陳述書中にも同様の趣旨の記載があるが、上記記載は仙波巡査部長による上記電話内容に係る伝聞を前提とするものであり、原審証人地域課長の反対趣旨の証言に照らしても、これをもって直ちに本部長の指示があったと認めることもできない。
さらに、原審における仙波巡査部長本人中には、仙波巡査部長が記者会見をするといえば県警が仙波巡査部長をでっち上げで逮捕するだろうと思っていた旨の供述部分があるが、県警側が仙波巡査部長を逮捕する準備をしていた形跡も、そのようなことが可能であることをうかがわせるような事情も、証拠上見当たらないところであり、県警が仙波巡査部長をでっち上げで逮捕しようとしていたとは認められない。なお、地域課長は、人事委員会の口頭審理において「(警務課長から)同期生の立場で『実力で止めましょうや』という発言はあったと認識しておりますが、それについては、『そういったことできるわけがなかろが』ということで否定しております」と述べた事実があるが、警務課長はそのような発言をしたことを否定している上に、地域課長自身も上記陳述の直後に「拉致とかね、逮捕とかいう(仙波巡査部長が)いろいろ公表していること、そういったことは私は一切否定します」と述べていることに加えて、仮に上記警務課長の発言があったとしても、言下に上司である地域課長が退けたというのであり、その発言の前後の経緯も、その意味するところの具体的な内容も不明である上に、前記認定の面談時及びその後の地域課長らの言動等に特段不自然な点は見当たらないところであるから、地域課長の上記陳述の存在をもって、直ちに上記判断が左右されるものでもない。
また、仙波巡査部長は、地域課長らによる面談行為及び説得行為は、憲法21条1項の保障する表現の自由を侵害する行為であるとともに刑事訴訟法239条2項の公務員の告発義務の履行行為である本件記者会見を妨害するものであり、公益通報者保護法の趣旨に照らし、違法である旨主張する。
地方公務員法30条は「すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げでこれに専念しなければならない」と定め、同法32条は「職員は、その職務を遂行するに当たって、法令、条例、地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い、且つ上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない」と定め、同法33条は「職員は、その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない」と定め、同法34条1項は「職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする」と規定し、同条2項は「法令による証人、鑑定人等となり、職務上の秘密に属する事項を発表する場合においては、任命権者(中略)の許可を受けなければならない」と定め、これら規定の趣旨を受けて、愛媛県警察職員服務規程(昭和52年7月本部訓令11号)8条は「職員は、職務に支障を及ぼすような宗教的又は政治的論議をしてはならない」と定め、同規程9条は「職員は、国民の信頼及び協力が警祭の任務を遂行する上で不可欠であることを自覚し、その職の信用を傷つけ、又は警察の不名誉となるような行為をしてはならない」と定め、同規程11条1項は「職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない」と定め、同条2項は「法令による証人、鑑定人等となり職務上の秘密に属する事項を発表する場合は、所属長を経て警察本部長の許可を受けなければならない」と定め、同規程20条は「職員は、職務上必要と認められる情報を入手したときは、速やかに報告しなければならない」と定め、同規程22条は「職員は、外出するときは行き先を明らかにしておかなければならない」と規定し、同規程5条は「監督者は、部下の職務及び身上に関し、適切な指導監督を行い、過誤のあるときは、分に応じてその責を負わなければならない」と規定する。
以上の諸規定によれば、地域課長が、仙波巡査部長の監督者たる上司の立場から、部下である仙波巡査部長の職務ないし身上に関する指導監督権の行使として、本件記者会見に関する風評を入手した際に、その真偽を確認し、会見の内容について問いを発すること自体は、適法な行為というべきであり、そうしたからといって直ちに表現の自由の侵害や公務員の告発義務行為の妨害あるいは公益通報者保護法の趣旨違反ということにはならない。もっとも、一般に記者会見が内部告発を内容とするような特段の事情のある場合には、ことの性質上、上司が部下に対する指導監督権の行使にも慎重な配慮を要するものと解され、部下が面会そのものや真偽の確認すら拒んでいるにもかかわらず、面会等を迫るなどすることは指導監督権の行使の方法において違法の疑いが生じ得るものといえる。しかし、本件においては、仙波巡査部長は、地域課長からの平成17年1月13日の面談の申入れに応じ、記者会見をするかしないかについては決めていない旨返答し、その後そのままになっていたのを、同月19日になって自ら地域課長のところに赴き、記者会見の打ち合わせのために弁護士に会う旨告げて、弁護士と会った後の面談に応じたものであり、面談の状況もこれまで認定説示してきたとおりであり、地域課長らが面談を無理強いしたり、仙波巡査部長の意向を無視したり、威圧を加えたり、その感情を害するなどした事情はなく、仙波巡査部長は面談の中止や自らの退席を求めることもなく、地域課長らの記者会見をするかしないか及び記者会見の内容はどのようなものかに関する質問に対しても返答しないまま終わり、翌日そのまま本件記者会見を実施しているのであり、前記認定の面談時の双方の会話の内容に照らしても、格別憲法21条1項や刑事訴訟法239条2項あるいは公益通報者保護法の越旨に反する事由が存したとは認め難い。上記主張は採用できない。
[3]争点2 本件拳銃保管が違法か否かについて
(1)拳銃規範は、警察官は、制服(活動服を含む)を着用して勤務するときは原則として拳銃を携帯するものとすることや携帯方法について定めるとともに、所轄庁の長が指定した管理責任者が、拳銃の取扱保管者を指定すること、離職したり休職を命じられるなどの一定の事由がある警察官から拳銃等の返納を受けること、拳銃の亡失、損傷等について報告を受け所轄庁の長に報告すること、試射弾丸等を登録すること、随時拳銃の検査を行い保管状況を監督することなど拳銃の管理及び監督の責任を負うことを定めている。
そして、拳銃の保管について、警察官は、貸与された拳銃等の保管の責めに任じると定めているが、一方で警察官は、拳銃を携帯しないときは、管理責任者が、部署に所属する警察官の中から指定した拳銃等の取扱責任者に保管を依頼することができ、また、管理責任者は、警察官が長期欠勤又は心身の故障のため、拳銃等を保管することが適当でないと認められるとき、警察官が停職を命じられたとき、修理、精密手入れ等のため、拳銃を集めるとき、亡失その他の事故の防止のため、管理責任者が特に必要があると認めたときは、指定した取扱責任者に拳銃の保管を命じることができ、その場合は、取扱責任者が保管の責任を負うことを定めている。
上記のように、拳銃規範が、管理責任者に拳銃の管理及び監督について広範な権限と責任を与えているのは、そもそも、拳銃が、人を殺傷する能力を有する強力な武器であって、日本においては、その所持は一般に禁止されており、警察官は、その職務を遂行するために、特に法令によってその所持が認められているものだからである。
以上の諸規定に照らせば、各警察官に拳銃を所持する権利があるなどとは到底認められず、拳銃の管理及び保管に関する管理責任者には、拳銃の保管に関しては、拳銃の武器としての特殊性、危険性に応じて、広範な裁量権が与えられていると解すべきであり、拳銃規範18条2項4号の「亡失その他事故の防止のため、特に必要がある」か否かを判断するに当たっても、この点を前提とすべきである。
(2)前記認定のとおり、地域課長は、地域課調査官の進言もあり平成17年1月19日の夜の面談の際の仙波巡査部長の妻の墓参りを済ませ息子らとも別れを告げてきたので思い残すことは何もないなどと興奮し、思い詰めた様子で涙声になるなどして話をしていた状況に加えて、同月20日の仙波巡査部長の本件記者会見の内容やその際に涙を流し「辞めるときは死ぬとき」などの発言を行った事実等を伝え聞いて、本件拳銃保管を行ったものであるところ、これらの事情からすれば、当時の仙波巡査部長については精神的にいささか不安定と判断されてもやむを得ない言動があったものと認められ、拳銃規範18条2項4号の「亡失その他事故の防止のため、特に必要がある」場合に該当する事由があったものというべきであるから、拳銃の管理責任者である地域課長の本件拳銃保管の判断は相当であり、その裁量権の範囲を逸脱ないし濫用したものとはいえない。このことは、本件拳銃保管が本件記者会見の実施後まもなく行われ、本件拳銃保管に続いて、後記のとおり違法と評価すべき本件配置換えがなされたからといって、左右されるものではない。
(3)仙波巡査部長は、本件拳銃保管が本件記者会見を行った仙波巡査部長に対する陰険な報復、見せしめのために行われた違法行為である旨主張するが、本件拳銃銃保管に当たって拳銃規範18条2項4号の「亡失その他事故の防止のため、特に必要がある」との判断に裁量権の逸脱あるいは濫用があるとは認められないことは前記のとおりであり、上記主張は採用できない。
仙波巡査部長は、拳銃規範17条を根拠にして、本部長も拳銃保管の権限を有しており、本件拳銃保管は、本部長の指示のもとなされたと主張するが、拳銃規範の規定は前記のとおりであり、前提事実及び前記認定のとおり地域課長が拳銃管理者として本件拳銃保管を行ったものであることは明らかであるから、上記主張は採用できない。
また、仙波巡査部長は、本件事実経過にかんがみれば、現職警察官による裏金の告発記者会見という特異事案については、監督上の処分をしたときには、警察庁に事前及び事後に報告しなければならないのであるから、本件拳銃保管も本部長の指示のもとになされたと主張するが、上記報告と拳銃保管が連動しなければならない理由があるとは認め難い上に、本件拳銃保管が本部長の指示のもとになされたこと自体を認めるに足りる証拠はないのであるから、上記主張は採用の限りではない。
[4] 争点3 本件配置換えが違法か否かについて
(1)任命権限に関する法令等の定め
地方公務員法は、道府県警察本部長が、道府県警察における職員の任命、休職、免職及び懲戒等を行う権限を有すること、職員の職に欠員を生じた場合において任命権者は、採用、昇任、転任、降任のいずれかの方法により、職員を任命することができることを定める。
任命権限の委任に関しては、道府県警察本部長は、任命権限の一部をその補助機関たる上級の地方公務員に委任することができるとの定めがあるほか規定はない。愛媛県警察職員の人事記録等に関する訓令は、人事異動の種別及び内容として、「転任」を「愛媛県の職員としての身分を中断することなく、任命権者を異にする他の機関から異動してきた職員を任命すること」と、「配置換え」を「同一任命権者のもとにおいて、職員に勤務場所又は職務の担当の変更を命ずること」と定める。また、県警本部長が行う人事異動の発令通知は、当該職員の属する所属長に対し、電話又は人事異動通知書等をもって通達するとともに、当該職員に対しては、辞令書を交付して行うものとするとし、所属長の行う人事異動の発令通知は、簡易な事項の発令を除き、当該職員に辞令書を交付して行うものとすると定めている。
(2)本件配置換えの権限
ア、所属長による発令
地方公務員法においては、職員の任命は、現に職員でない者を職員の職に任命する「採用」、法令、条例、規則その他の規程により公の名称が与えられている職員の職でその現に有するものより上位のものに任命する「昇任」、昇任の逆である「降任」、「昇任」「降任」以外の方法で他の職員の職に任命する「転任」の4種類に限定されている。国象公務員の職員の任免においては、転任に類似する任用方法として、「配置換え」の制度が設けられ、転任とは、職員を任命権を異にする他の官職に任命することであり、配置換えとは、職員を任命権者を同じくする他の官職に任命することと考えられているが、地方公務員においては、「配置換え」の制度はなく、昇任・降任又は転任のいずれかに含まれることになる。
そして、警察職員の任命権限あるいは任用権限の委任に関しては、道府県警察本部長は、任命権限の一部をその補助機関たる上級の地方公務員に委任することができるとの定めがあるほか規定はない。
控訴人は、前記認定のとおり、愛媛県警察職員の人事記録訓令において、人事異動の種別及び内容として、「転任」を「愛媛県の職員としての身分を中断することなく、任命権者を異にする他の機関から異動してきた職員を任命すること」と、「配置換え」を「同一任命権者のもとにおいて、職員に勤務場所又は職務の担当の変更を命ずること」と定めるところ、愛媛県警察の職員の任用に関する訓令には、所属長が職員の職務を指定する旨の規定があるので、所属長が職務担当の変更としての「配置換え」を命ずることができるから、所属長である地域課長が、適法に本件配置換えを行った旨主張するところ、前記県警察本部長の任命権限の一部の委任に関する地方公務員法6条2項に照らし、上記の愛媛県警察職員の人事記録訓令や愛媛県警察の職員の任用に関する訓令は、その内容自体からして、転任である「配置換え」についての県警本部長の任命権限の一部を委任したものと解する余地があり、現に、前記認定のとおり、県警本部では係長以下の警察官に係る人事異動については所属内の配置は所属長が発令する実態ないし慣行があり、地域課長も所属内異動の発令をしたことがあることからすると、本部長が有する任命権のうち所属内の異動に関しては上記各訓令をもって包括的に所属長に委任されているものと認めるのが相当である。
以上によれば、前提事実のとおり、鉄道警察隊も通信指令室も、同じ地域課に設置されており、本件配置換えは、基本的には同じ地域課内での内部異動であるから、地域課長は、従前からの慣行に従い、上記委任に基づき、自らの権限でこれを実施したものと認められる。
本件配置換えを本部長が行い、又は指示したことを認めるに足りる証拠はない。
イ、補足
仙波巡査部長は、仙波巡査部長に対する事情聴取の後の平成17年1月23日に粟野本部長を交えた検討会が実施され、具体的な異動ポストが定まっていない翌24日に、地域課長ではなく生活安全部長が異動の内示をし、内示から2日後の同月26日に通信指令室企画係が設置された等の事実を総合すれば、本件配置換えは、粟野本部長が行ったものと推認される旨主張する。
前記認定のとおり、本件記者会見後、仙波巡査部長に対する聞き取り調査査が実施され、それを踏まえての検討会が、粟野本部長らが参加して平成17年1月23日に実施されているが、その検討会の趣旨は、その参加メンバーに照らしても、仙波巡査部長の本件記者会見に基づいて、会計上の今後の調査方針を検討するものと解するのが相当であり、仙波巡査部長の処遇等を協議するものとは認め難く、他に上記検討会において仙波巡査部長の処遇等を検討したことを認めるに足りる証拠はない。その他、粟野本部長が本件配置換えを行ったことをうかがわせるような事情も見当たらない。上記主張は採用できない。
また、仙波巡査部長は、本件記者会見が警察庁へ報告すべき特異事案であり、このような場合に監督上の処分を行った場合には、警察庁に報告することになっているのであるから、本件配置換えは、本部長の指示のもとに行われたとも主張するが、上記報告と配置換えが連動しなければならない理由があるとは認め難い上に、本件配置換えが本部長の指示のもとになされたこと自体を認めるに足りる証拠はないのであるから、上記主張は採用の限りではない。
なお、原審における仙波巡査部長本人中には、本件配置換えを行ったのは栗野本部長であるとして、地域課長から、仙波巡査部長を転勤させろと言われて困っている、異動については地域課長が盾になる。さらには、辞表を出し、仙波巡査部長の内示の撒回を申し入れたができなかった、仙波巡査部長がさらに24日に記者会見をしたことが原因であると言った旨の供述部分があり、その裏付けとして、平成17年1月23日に地域課長と昼食をともにした際にいわゆる隠し撮りをした録音テープを提出し、その録音の中には、仙波巡査部長からの異動に関する話題に対し、地域課長が「異動のことは、それはちゃんと、それはちゃんとわしが盾になるけん」「現段階では残留ということでヒアリング出しとるけん」などと答えた部分が残されている。この会話について、原審証人地域課長陳述書中には、記憶がないが、話をしたとすれば、仙波巡査部長の意思に反して本件配置換えをしなければならないという気持ちがあったので、仙波巡査部長に配慮し、迎合的に話しただけだと思う旨の供述ないし陳述部分があるところ、上記録音に係る全体の会話の調子が相互に極めて迎合的な雰囲気の中でなされていることや、本件配置換えの実施を控えた地域課長と仙波巡査部長との旧来の関係等からして、上記弁解は必ずしも不自然ではない。その上に、上記録音に係る会話部分の前後の脈絡も必ずしも明確ではないほか、本件配置換えに対する粟野本部長の指示等をうかがわせるような形跡は他には全く見当たらない状況下においては、上記録音による会話部分の存在をもって、直ちに本件配置換えが栗野本部長によってなされたことの証左とすることもできない。また、仙波巡査部長の上記供述部分中、地域課長が内示の撤回を申し入れたなどとする部分については、地域課長は人事委員会の証言で否定しており、上記供述部分を裏付けるに足りる証拠はない。
他に、本件配置換えが本部長によって行われ、あるいはその指示のもと行われたことを認めるに足りる証拠はない。
(3)本件配置換えの違法について
ア、違法事由
配置換えは、基本的には、組織構造、それぞれの職の職務内容、職員の個々の状態、能力、適性及び勤務実績等を総合的に勘案して高度に合目的、技術的見地からなされる裁量行為であるというべきであるが、特段の理由がない限りは定期異動など特定の時期に行われているのが通常であり、職員も合理的な理由や必要性がなければ勤務場所を変更されたり、職務の担当の変更を命じられることがないということについて合理的な期待を有するというべきであるから、特定の職員に対する嫌がらせや報復のためになされる場合はもちろんのこと、その必要性に関する判断に社会通念上著しく妥当性を欠くところがあるような場合は、違法となるというべきである。
本件配置換えは、前記認定のとおり、現職の警察官である仙波巡査部長により愛媛県内の警察内部で裏金作りが行われていたことを内容とする本件記者会見が実施されたわずか4日後の平成17年1月24日に内示され、仙波巡査部長の反発にもかかわらず、その2日後の同月26日にそのための新たな配置先の部署の新設のための訓令の一部改正が行われ、その翌日である同月27日に辞令の交付が行われたものであるが、新設された企画係の担当事務は前記認定のとおりであるところ、その事務内容自体からしてこれを新設する緊急の必要性があるとは認め難いほか、仙波巡査部長のこれまでの経歴や担当職務ともほとんど無縁であり、仙波巡査部長がこの部署に適任とは考え難い上に、仙波巡査部長の年齢や経歴等からしても、敢えてこの時期にこのような新たな職務を意に反してまで経験させる意味があるのか疑問であって、他にこのような配置換えをこの時期に行うことの必要性や合理性の存在を首肯させるような事情は証拠上見当たらない。
以上によれば、本件配置換えは、職務上ないし人事上の必要性や合理性とは全く無関係に、本件記者会見に端を発して実施されたものというほかなく、配置換えの権限者である地域課長が敢えて本件配置換えに及んだ意図は、本件記者会見に至る経緯や本件記者会見の内容等に照らすと、捜査費等不正支出問題に対する県警側の組織的対応とは別の行動をとった仙波巡査部長に対する嫌がらせないし見せしめのためと推認されるところであり、明らかに社会通念上著しく妥当性を欠くものというべきである。
したがって、本件配置換えは違法である。
イ、補足
控訴人は、本件配置換えの理由として、本件拳銃保管を行ったため不可避な措置として地域課鉄道警察隊から異動させる必要があった旨主張する。しかしながら、地域課鉄道警察隊の勤務に拳銃携帯が不可欠であることを首肯させるような規程や慣例ないし事由を認めるに足りる証拠はないほか、本件拳銃保管が本件記者会見に係る仙波巡査部長の言動に起因するものであることに加えて、仙波巡査部長の過去の勤務実績等に照らしても、拳銃保管の必要性が長期にわたり継続するような事情があるとはいえないし、鉄道警察隊において、様子を見るための短期間拳銃を携帯しない勤務形態を不可能とするような事情は見当たらない上に、実際に平成16年6月から8月にかけて健康上の問題で拳銃を所持せずに鉄道警察隊に勤務した者がいたこと、鉄道警察隊に勤務していても会計調査班による聞き取り調査は十分可能であること、本件記者会見により仙波巡査部長の顔が周知された事情があったにしろ、いわゆるほとぼりが冷めるまでは鉄道警察隊で事務処理をさせるなどして対処することも可能であることなどの諸点を併せ考えると、仙波巡査部長について、本件拳銃保管を行ったため不可避な措置として地域課鉄道警察隊から異動させる必要があつたとはいえない。上記主張は採用できない。
また、県警側は、本件配置換えは、県警本部の通信指令室体制の強化の必要が平成16年12月ころから検討され、平成17年4月には通信指令室に企画係を新設することが内定していたのを、同年2月に前倒しして実施し、その上で、地域課の勤務が長く適任者である仙波巡査部長を異動させただけである旨主張し、原審証人中はこれに沿う部分があるところ、上記内定の点については、原審証人地域課長中に、平成16年12月に企画係新設の内定通知を受けた旨、そのペーパーがある旨の供述部分があり、同警務課長中に、同月段階で同年4月には企画係を新設することが内定し、本部長名の正式な文書がある旨の供述部分があるが、上記文書の存在を裏付けるに足りる的確な証拠はなく、疑問の余地がある上に、仮に上記内定があったとしても、前記に説示するところによれば、内定の前倒しを必要とする事情も、仙波巡査部長を適任とするに足りる事情もあったとはいえないのであるから、上記主張は採用の限りではない。
[5] 争点4 勤勉手当減額が違法か否かについて
仙波巡査部長の本件記者会見までの勤勉手当の評価はC(勤務成績が良好である)であったのに、本件記者会見後の平成17年6月、12月の勤勉手当の評価はC下(欠勤時間がある。勤務成績がややよくない。注意処分を受けた場合に相当)となり、その勤勉手当が減額となったことは、前提事実働及び前記認定のとおりである。
勤勉手当は、職員の給与に関する条例及び期末手当及び勤勉手当の支給について、に基づき、一定期間の基準日に在職する職員に対し、6月1日及び12月1日の基準日以前6カ月間における勤務成績に応じて支給するものである。この勤務成績の評定は、評定期間中に職員に割り当てられた職務を遂行する上でどの程度の成績をあげたかなどに基づいて判定するものであって、割り当てられた職務、職務経験、職員の能力、勤務実績などを総合的に考慮してなされる専門的な判断であるから、評定権者の広範な裁量権が認められるべきである。もっとも、当該裁量権も全くの自由裁量ではなく、例えば、違法あるいは著しく不合理な上司の職務命令を起因とする勤務実績の低下や積極性の欠如を理由に勤務成績の評定を下げることなど、評定が社会通念に照らして著しく不合理であるような場合は、勤務成績の評定及びこれに伴う勤勉手当の減額は違法となり得るというべきである。控訴人は、評定期間中における仙波巡査部長の勤務状況は、仕事ぶり、勤務実績、積極性において劣っていたことから、所属長は、その勤務成績が良好ではなかったと適正に判断したものであり、勤勉手当の評価は、仙波巡査部長の記者会見とは全く関係がない旨主張する。
通信指令官の陳述書には、仙波巡査部長に担当させた業務として@APRの整備A無線機の再配分B緊急配備の見直しC無線機および無線機用乾電池の管理運用D非常(異常)通報装置の管理運用El10番通報受理業務があるが、C及びEの業務を除くいずれの業務についても仙波巡査部長が十分にしないので他の室員が残業するなどしてそれを補完していた旨の記載があり、原審証人通信指令官にもこれに沿う部分がある。しかし、@ の業務の責任者は通信指令官で、他の業務の責任者は調査官であり、仙波巡査部長の業務懈怠について通信指令官は上司に対し、報告したことはなく、調査官が報告したかどうかはDの業務に関して1回報告したこと以外に知らないし、聞いていない旨、また、仙波巡査部長の業務懈怠による支障についても報告したことはない旨、仙波巡査部長に対して注意や処分がなされたことはない旨の供述部分もある上に、仙波巡査部長の本来の業務及び懈怠部分の各具体的内容やその量等を裏付ける証拠は何ら提出されておらず、仙波巡査部長の業務懈怠及びその範囲等を客観的に認定するに足りる的確な証拠は提出されていない。別の陳述中にも、仙波巡査部長の勤務懈怠があり、その点について勤務評定の際には報告が挙げられている旨の記載部分があるが具体的な裏付けを欠いている。
上記のとおり、仙波巡査部長の勤務成績評価の評語C下は「欠勤時間がある。勤務成績がややよくない。(注意処分を受けた場合に相当)」に相当するものとされているが、本件配置換えの後、仙波巡査部長に欠勤時間があることを認めるに足りる証拠はなく、注意処分を受けた形跡もない上に、勤務成績がややよくない旨の指摘は、原審証人中に見受けられるものの、その具体的な裏付けがなく、通常業務懈怠の場合にあって然るべき上司に対する報告は1回のみで他にあった形跡はなく、仙波巡査部長に対する注意や処分もなされた形跡はない。
以上のような諸事情に加えて、前記のとおり本件配置換え自体が違法であり、仙波巡査部長の意に反している上に、新部署が仙波巡査部長のこれまでの経歴や担当職務ともほとんど無縁であり、仙波巡査部長が適任とは考え難いことに加えて、仙波巡査部長が平成17年2月10日には本件配置換え等を違法として本件訴訟を提起し、前提事実のとおり、同月23日には本件配置換えを不当として人事委員会に不服申立てをしていた経緯のほか、仙波巡査部長が県警側に対して勤務成績の評定に関する評価の説明を求めても何ら回答がなかったことなどをも併せて考慮すると、仙波巡査部長の成績の評定をCからC下に下げることは、社会通念上著しく不合理というべきである。
したがって、上記勤勉手当の減額は違法というべきである。
なお、本件勤勉手当の減額について本部長が指示をした事実を認めるに足りる証拠はない。
[6]争点5 損害額について
本件配置換えの内容、これに至る経緯、特に職務上ないし人事上の必要性や合理性とは全く無関係に、本件記者会見に端を発して実施され、それが捜査費等不正支出問題に対する県警側の組織的対応とは別の行動をとった仙波巡査部長に対する上司による嫌がらせないし見せしめと推認される事情のほか、その後の勤勉手当の減額、仙波巡査部長の現職警察官としての立場、経歴等を併せ考慮すると、仙波巡査部長の精神的苦痛は大きいものというべきであり、その慰謝料は100万円を下回らないものと認めるのが相当である。このことは、本件記者会見に対する事前の妨害行為が認められず、本件拳銃保管が違法ではなく、本件配置換え及び勤勉手当の減額について県警本部長が指示をしたとは認められないことによって左右されるものではない。
[7] 結論
以上によれば、控訴人(県警側)は、仙波巡査部長に対し、国家賠償法1条1項により、その職員による違法な本件配置換えおよび勤勉手当の減額による仙波巡査部長の精神的苦痛に対する慰謝料100万円の支払義務を負うものというべきであり、仙波巡査部長の請求を認容した原判決は結論において相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。