国賠訴訟で勝訴の判決を受け、報道陣の取材を受ける仙波敏郎巡査部長=11日午後1時35分ごろ、松山地裁前 「違法」「社会通念上著しく妥当性を欠く」―県警を指弾する裁判長の言葉が法廷に響く。捜査費不正支出問題を告発直後、配置転換を命じられた仙波敏郎巡査部長(58)が起こした国家賠償請求訴訟。提訴から約二年七カ月を経た十一日、松山地裁が下した判決はほぼ全面的に原告の主張を支持した。県警トップの関与や組織的違法性が認められ、原告席にあふれる喜び。敗訴した県警側は法廷だけでなく、現場警察官も硬い表情をのぞかせた。
松山地裁には三十六枚の一般傍聴券を求めて約八十人が列をつくった。原告勝訴。冒頭の主文言い渡しが終わると、原告代理人の一人が外で待つ支援者に「勝利」を伝えようと、慌ただしく席を立った。出廷した六人の県警職員は硬い表情のまま。仙波さんは高橋正裁判長をじっと見据え、判決理由に聞き入った。
「配置転換は内部からの造反に報復としてされたと推認される」。裁判長の重い言葉は続いた。閉廷。張り詰めた感情が解けたのか、仙波さんの目に涙が浮かぶ。ともに闘った弁護団はねぎらいの握手を求め、傍聴席からも拍手が起こった。
支援弁護団に全国から七十七人の弁護士が名を連ね、口頭弁論は十三回を数えた。配置転換当時の県警本部長も異例の証人出廷。警察組織の裏金づくりが全国的に問題となる中、現職警察官による初の実名告発が巻き起こした問題追及のうねりは大きく高まった。
判決後、県庁での会見に臨んだ仙波さんの表情は終始、晴れやかだった。「告発から千日近くがたち、つらいこともあったが、苦労が報われた。法廷で送られた拍手は私の財産だ」と振り返った。「定年までの残り一年七カ月も微力ながら裏金絶滅と治安維持のために尽力したい」
支援弁護団の東俊一弁護士は「判決に敬意を払いたい。裏金問題には今後も関心を持って取り組んでいくが、われわれだけでは駄目。国会や県議会など全体で考えてほしい」と要望した。
【「画期的」支える会歓喜】
二年七カ月の国家賠償請求訴訟に力を尽くした「仙波敏郎さんを支える会」(七人)。勝訴を受け松山市内で開いた報告集会では、支援者ら約六十人が喜びを分かち合った。
権力の内部から権力の不正を告発した仙波さん。困難に耐え忍んだ労苦をねぎらうように会場からは「権力と闘って、勝てることがあると示してくれた」などの声が続いた。
弁護士は十一人が出席。支援者は「画期的な判決」との薦田伸夫支援弁護団長のあいさつに聞き入りながら、事実の重みと真実の強さに思いをはせた。「控訴しないでほしい」。そう願う一方で、控訴され、上告審にまでもつれ込むかもしれないとの懸念もある。「最高裁まで行っても応援します」。参加者の一人がマイクを握ってそう語ると、大きな拍手が起こった。
濃紺のスーツに赤いネクタイで集会に臨んだ仙波さん。勝てば赤、負ければ黒と決めていた。そのネクタイの“勝利の色”に笑顔が映える。母ヨシ子さん(82)は祝福の花束を受け取った後、息子を支えてくれた人たちに深々と頭を下げた。
【“敗北”に衝撃 現場警官 嘆きの声 県警】
組織の“敗北”。国家賠償請求訴訟で十一日、全面敗訴した実質の被告である県警内部に衝撃が広がった。「想像以上に厳しい」「納得できない」。揺れる心情や怒りを吐露する声。沈黙する幹部。「自分には関係ない」との反応も。
「賠償命令より、個々の認定が厳しい」。県警本部の五十代の幹部は険しい表情を見せた。中でも仙波敏郎巡査部長の配置転換に本部長の関与が認められたことに「裁判所に十分な説明を尽くせなかったのだろうか」と肩を落とした。複数の県警幹部は「特に感想はない」と言うだけだった。
中予の警察署では複数の職員が判決に怒り、四十代の男性警察官は「本当に腹が立つ。私は裏金づくりをしていないし、これではみんなやる気をなくす」と語気を強めた。
南予の署では幹部に判決内容が伝わると、重苦しい雰囲気に。「私らがコメントできる立場にない」「勘弁してほしい」。南予の交番勤務の警察官がこぼす。「警察の不祥事があれば、市民から厳しい言葉を浴びせられるのはわれわれ第一線の警察官。まじめにやっているのだが…」
一方、裁判で配置転換や拳銃保管を判断したと主張してきた元地域課長は「感想などは控えたいが、県側が控訴し、自分の証言が必要なら、あらためて証言する」と不満をにじませた。
当時の本部長だった粟野友介・警察庁交通指導課長は「愛媛県警で対応していると承知しているが、裁判所の判決のことであり、コメントは控えたい」とした。